テーマ:福島県沖地震(2022年3月16日)の大規模集客施設の天井被害、そして関東大震災100周年
講師:川口健一(東京大学生産技術研究所・教授)
日時:令和4年7月12日
概要:
川口先生には東日本大震災の後に研究会で天井の被害についてご講演をお願いしました。今回も地震による天井被害を中心にご講演をいただきました。
最初は自己紹介をかねて、代々木競技場の設計に携わった坪井善勝教授や丹下健三教授の話題で、坪井教授が川口研究室の先々代の教授にあたり、同じことをやっていてもダメだ、という意識だったそうだ。そのためいろいろなことに挑戦をしてきた。
天井被害については、阪神淡路大震災のときから関心をもっていたが、当時の構造の研究者は「耐震」には関心があったものの、非構造材には興味がなかった。天井が落下すれば人を守ることもできないし、避難所としても使えない。
地震で天井が落ちると、より強い耐震天井が必要とほとんどの構造設計者は考える。しかし、これは間違い。平常時にも天井落下は頻繁に発生している。落下事故は重力が原因なので、鉛直1Gに対策すれば人命は守れる!
福島県沖の地震では、音楽ホール、プール、体育館などで天井の被害が発生している。音楽ホールでは、東日本大震災や2021年の福島県沖の地震では天井落下は起きなかったが、2022年の地震では天井が落下した。この要因として吊りボルトの低サイクル金属疲労が考えられる。1回の地震では大丈夫でも、地震が繰り返し起きると損傷が蓄積している可能性はある。天井の被害については、AIを使って損傷箇所を特定できるようなアプリの開発もおこなっている。
宮城県で復興予算をつかった公共建築(重要度係数×1.25)の仕上げ材などが損傷して、継続使用できなかった。地震の揺れもそれほど強くなかったので、構造的な被害がないものの、仕上げ材などの非構造部材が損傷することまでは想定していなかったのではないか。事業継続ができる「備える建築」が必要ではないか。公共建築の担当者は免震構造にしておけば良かったと言われていたそうだが。
最後に2023年で関東大震災から100年となる。これまでの100年間は耐震技術などを向上させてきたが、これからは「教育」が大事になるのではないか。その意図は耐震だけでなく、「建築の性能」を見据えた教育を指向することかと理解した。
(文責:高山峯夫)