第19回耐震工学研究会 
(平成13年7月17日,巴コーポレーション勝どき泉ビル,参加人数:42名)

斎藤公男先生(日本大学)
   「ホリスティックな構造デザインとは何か  −最近の空間構造の事例をめぐって−」


  今回は日本大学の斎藤公男先生をお招きし、標記のテーマでご講演頂いた。
まず、「ホリスティック」「モフォロジー」「テンセグリック」などのキーワードについて説明された。ホリスティック(holistic)とは、全体論(holism)に関すること、部分ではなく全体あるいは総合的(システム)に捉えるという意味。モフォロジーは形態学のことであり、かたち(form)・ちから(force)・しくみ(system)・しかけ(detail)を総合して構造形態(Structural Morphology)と総称する。テンセグリック構造はバックミンスター・フラーにより提案された。このシステムを純粋に用いた建築物は一つしかないそうであるが、この構造システムをハイブリッド化することで様々な可能性が広がる。

  この様な概念に基づいた事例の紹介があった。
静岡スタジアム(エコパ)では、設計と施工の脈絡をどうつけるか、自然との調和などを目指して大屋根の設計がなされた。2002年ワールドカップ会場の一つ。最大客席数56,000人。約40mのキャンチレバーの大屋根は脚部一点でピン支持された天秤式のトラス構造が採用され、トラス構造が単独で自立できる、即ち施工が簡単で短時間ですむ方法となった。その中で、耐風ブレースの設計(特に角度)が重要な役割を担っていた。耐風ブレースの固定端にはダンパーが組み込まれ、水平・上下荷重に対してトラスの応答を低減する工夫がされている。
  山口ドームは山口きらら博のメイン会場で、コミュニティードームとの関連、外部空間との連続性などに配慮されている。屋根構造には、テンセグリックトラス構造が採用され、立体トラスよりは軽い印象をもっていると感じた。テンセグリック構造とするために引張材にプレストレス力を導入する簡便な方法の検討、膜材のしわや弛みが生じないように常に緊張するための仕掛けなどが採用された。屋根の支持には積層ゴム支承が用いることで、屋根支持体の負担を軽くすることも行われている。

  講演の内容は実施設計に基づいたものであり、新しい構造手法やディテールの検討・設計など実に興味深く、2時間の講演もあっという間であった。
  その後の質疑応答の時間では、下関の唐戸市場の構造デザイン、京都にできているプールの大屋根のデザインなどについての紹介もあった。金田氏(構造計画プラス・ワン)には静岡スタジアムでのダンパーの効果、積層ゴム支承を用いることで、地震応答時の屋根の上下応答も低減することができるなどの解説をしていただいた。
  研究会は、予定時間を30分越えて終了し、その後、懇親会へと移った。

(高山峯夫記)

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