◆ 第23回研究会 概要

講 師:新宮清志(日本大学教授)
テーマ:「シェル・空間構造の知的振動制御と免震並びにスマート構造への試み」
日 時:2002年1月30日(水) 14:00〜17:00
場 所:住友金属鉱山(株)会議室

今回は新宮先生に標記のテーマでご講演を頂いた。急なお願いにもかかわらず快く講演をお引き受けいただき、ありがとうございました。以下にご講演と質疑の概要を示します。

最初に、ファジイ理論の基礎について解説。「あいまい」とは、知識が不足、解釈が幾通りもある、未来のこと、正確でない、定義できない、定義しても意味がない(fuzziness)などと言える。だまし絵を使った「あいまい」の紹介もあった。ファジイ理論は、L.A.Zadeh教授(カリフォルニア大学バークレイ校)の提案によるもので、1960年代初めにファジイ集合理論を提案。現在では、様々な機器や制御に利用されているこの理論も最初、学会からは受け入れてもらえなかったとのこと。

ルビンの壺 婦人と老婆

シェル構造の解説。そもそもシェル構造に進む切っ掛けとなったのは、千葉県の総合運動場体育館で、この建物の構造設計に関わった。シェルの強さを実感してもらうために、生卵を指で割るというデモを実際に行った。生卵ですから簡単に割れそうに思いますが、これがなかなか割れない。相当の握力の持ち主が力を入れてやっと割れるといった状態であった。このことから、シェルとしての強度(膜応力状態、軸力と面内せん断力と曲げ応力状態の比較)を実感することができた。このデモは大学の学生にも行っておられ、好評とのことでした。シェル構造の構造解析は最初は当然ながら静的解析であったが、その後は、動的問題へと移る。第9回世界地震工学会議(東京、1988)の時に、石丸先生(日本大学)からシェル構造の制御をやってみたらと示唆を受けたのが、このような研究の契機となった。

1980年代の初め頃、シェルの委員会で、坪井善勝先生がシェルでは上下地震動と水平地震動では応力状態はどちらが大きいのか?という話をされた。そういったことは未だ解決されていないのであれば、取り組んでみようと思い、解析を行った。上下動と水平動の大小関係、ライズとスパンの関係にもよります。ライズの非常に高いものだと水平動の影響が大きく、偏平なものは上下動の影響が大きいということがわかりました。制御としては、ダンパーを付加したシェル構造の解析を行った。固有値解析で得られた変形の大きい箇所にダンパーを付加する。この時、運動方程式中の減衰マトリックスをどうのように組み立てるのか? まだよくわかっていないが、質量マトリックスに比例させるような形式で導入した。さらに、免震シェル構造として、上下動を対象としたシェル構造の免震に着いて検討。免震部分のばね特性を適切に設定することで、シェル部分の応力を低減させることが可能となる。また、最近では形状記憶合金を使用した振動制御にも取り組んでいるとのこと。

以下、質疑応答:

高山>免震シェル構造というのがまだ1件も実現されていないんですよね。世界的にも。

新宮>はい、できておりませんので、ぜひ研究会参加の企業の方から実現に向けて・・

高山>実際の70mくらいの建物を上下に支持してそれなりの一次の振動数を与えるためには、どれくらいのバネが必要なのか、そして、上下の変位としてはどれくらい出てくるんですか。

新宮>バネ定数ははっきり覚えてないんですが、変位はスパンだとか地震波によりますが10cmとか20cmくらいは動きます。これはもちろんバネ剛性を高くすれば小さくできるわけですが、応力が大きくなるということで、どれくらい動いていいのか、どれくらい応力を下げたいのか、という兼ね合いで決められます。


岡本>素朴な質問なんですが、先生は上下動にこだわっていらっしゃいますが、ライズの低いシェルなどですと、確かに上下動は大きく影響します。ただし通常ある程度ライズを持っています。ライズを持っている空間構造で地震を考えたら、むしろ水平動+水平動を伴う上下動の影響の方が大きいという研究論文もあるわけですが、なぜ上下動にこだわられるのかそのへんを教えてください。

新宮>私が建築学会の論文集に昭和58年に載せたのは、水平動の地震が来た時の生ずる応力、これはライズを3種類書いています。非常に偏平な値、中くらい、すこしたかくなる、非常に高いのはやってないんですけれども。水平動の地震が来た時は、偏平な値も、中くらいの値もある程度高くなった場合も、そんなに大きくないです。ところが、同じ100ガルなら100ガルの地震動が入った場合に、偏平なシェルに上下動がはいった場合地震波によっても違いますが4〜5倍の大きなのが出てきます。そういう結論を踏まえて、今の展開がございます。もちろん、実際のことを考えると水平動成分と上下動成分の両方を考えなければ話になりません。だけども、上下動をされている方はあまりおられなかったこともあって、特に注目しました。

岡本>RCのシェルの場合はわからないんですですが、鉄骨のトラス、鉄骨シェルもそうかもしれませんが実際の設計の場合は日本が地震国であるということもあるんでしょうが、水平動で断面を決めておけば上下の加速度が少々大きくてもほとんどサイズが変わらないんです。そういう意味もあって、鉄骨のスペースフレームを設計しているのに対しては、上下動は意識しないで設計しているのが実務の実際ではないかと認識していますので、上下動免震というのはあまりぴんと来ない。要するに、水平方向に対して入力を減らしておけば、上下動が仮に重なって入ったとしても余力はある。つまり、大スパンですから、通常、鉄骨の設計は支承の境界条件は、半径方向はフリーで設計してある。ピンである。テンションリングを入れるにしてもなんにしても、下部の躯体とは縁を切るのが基本的な設計法なんですね。ですから、仮に自重と雪と半々としますと、雪と地震波も普通は組み合わせませんから、仮に地震時に上下動が入って応力が入ったとしても余力があるわけですね。1G分だけ余力があるわけです。そうすると、そうそうのことでは上下動ではスペースフレームが局部的には座屈する事もあるかもしれませんが、全体を見た時は大丈夫だというストーリーで設計をしているというのが現状です。

新宮>縁を切るというのはどのようにするんですか。積層ゴムのようなものをかまして、自由に動けるようにしているんですか

岡本>そういう方法もありますし、もうちょっと簡易な方法としてはベースプレートにルーズ穴をあけておいてアンカーボルトを入れて滑り材を少し挟んでおくという程度のものが簡易な方法としてはよく使われます。テフロンとステンレスのものです。

新宮>水平動地震のものに対しては動けるということですか。

岡本>円形に平面だと半径方向にルーズをきっておいて、接線方向はピンなので止まると。一応ルーズですから。

新宮>あそこの大阪のRC造の体育館。正式な名前は忘れましたが地下に潜っている。

岡本>あれも、縁を切っているわけです。先ほど温度変形も逃げるとおっしゃいましたけれど、理屈はそうですね。半径方向への呼吸する事によって生ずる反力を逃がすということです。鉄骨でそういった境界条件をなぜとるかというと、下部構造が完全にピンというのはなかなか難しいんですね。仮にRCであっても、多少なりとも動きますから。ほんとはピンで突っ張る方が鉄骨のサイズは非常に細くて済むんですが、実態として完全ピンというのは難しい、かといって完全ローラーでもないんですけれど、ですから安全を見てローラーで設計してしまうということをよくやります。

新宮>ローラーにするとあれですね。解析よりローラーとピンというのは応力状態が全然違うんですよね。10倍までじゃないけれど5〜6倍とか7〜8倍とかになりますね。今のことは、上下動とか水平動とかとは、ちょっと離れたと思うんですが、なぜこだわったかというと、さっき申し上げた通り、やっている人がすすなかったということが一番あるわけなんですが、最終的には上下動と、水平動とを組み合わせてやらなければならない。今はそちろのほうに視点を置いてやってきたという形です。

岡本>解りました。ありがとうございました。


高山>空間構造が地震で損傷を受けたというのは実際あるんですか

新宮>こないだ神戸の地震の時はですね。支持部分がやられてますね。シェルや空間構造全体が崩壊した例はなく支持部分でやられているので、そこらへんが大事でしょうね。地震で壊れたのがないのでいいんじゃないかという質問なんですが、やっぱり気になるんですよね

参加者>境界条件が一番物を言いますよね。要は、ふわっと載っけてどっかで止めなくちゃいけないわけですよね。止める所っていうのは場所が限られますから、水平力がきますと集中してくるので、よっぽど強くするか、あるいは逃げるかのどっちかしかなくて、今までの設計レベルというのは静的にせいぜい大きくても1Gで、通常はその半分以下になったりするんですけれど、特にアンカーボルトの断面で頑張るとか、その程度のものです。スポーンと切れちゃう可能性がある。それから平面計画が悪いとねじれてですね、あるいは違う建物の上に乗っかっていると相対変形を受けて、強制変位をうけて切れてしまうとかですね。阪神競馬場がまさにそれです。パイプが切れて、あるいは支承のところのアンカーがスポーンと全部ある箇所切れてましたけれど、そういう被害が目立ちますね。


新宮>被害を受けた報告は日本の場合はなかなか報告にならないですね。

佐竹>地震が来ないのに壊れたのはあるんですよ。鉛直荷重で。つい最近では関西地方で木造集成材55mスパンの組み合わせHPシャーレン。実は同じタイプのが歴代3棟壊れていますね。地震も来ないのに。ですから、僕は地震よりも常時荷重が怖いと思っております。

新宮>原因はわかっているのですか。

佐竹>皆さんシュミレーションされると解ると思うんですけど。これは不安定構造なんですね。実は私もやっているんですよ。だけど私は壊してない。だからしゃべっているです。キャンデラという人の文献を参考にしながら私は設計したんですけどね。広島県の某市の体育館が竣工式のとき工事関係者は施主に報告しないで、上からおっこちるんじゃないかと思いながら竣工式を終わらせているんです。で、中央部が1m沈んだですよ。とんでもない話です。免震以前の話です。

多田>ちょっといいですか。今のHPシャーレンが落ちたという話ね。横浜の体育館の事件ご存知ですか。施工の人は仮枠はずすのは危ないなと言っている訳ですよ。感覚的にね。設計者は大手設計事務所だった。そして設計者にお伺いを立てたら、俺のやっている事に間違いはないといって、そこで聞いたら大林の人たちはいつ落ちるかわからんから落ちるという前提で足場をはずしていこうということでやったそうですよ。そして、みしみしいったときはびしゃっと来たわけです。僕はその時、1級建築士に事務所はつぶれるなといっていたら誰も被害ないし、免許も取り上げられなかった。それで、だめやなとそういう話をしたのを覚えています。要するに、解析モデルと現実のズレが必ずあるんです。ラーメンだって、柱・梁が線でしょ。そんなもんじゃないでしょ太さは。

佐竹>安心できるやつもあるんですよ。これは駒沢の体育館。駒沢ではまず先にこういう安定したものを作ってあるんです。そこに、こういう形のHPを架けたんですね。これは、力がただちに地上に行くので安定しているんですね。だから、解析の前に形の問題なんですよ。

多田>今おっしゃったように、設計者には力の流れが見えないことがあるわけですよ。ところが、解析に目が奪われちゃって、力が雲散霧消するですね。

シェル構造に関する興味ある話で盛り上がり、少々時間を過ぎて研究会は終了した。その後、懇親会に移った。

(文責:高山峯夫)


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