講 師:長橋純男先生(千葉工業大学)
テーマ:「震災による経済活動力低下の予測に基づく首都圏の地震危険度評価」
日 時:2002年2月27日(水) 14:00〜17:00
会 場:新日本製鐵(株)代々木研修センター
◆震災多発国ニッポン。
・我が国は世界有数の地震国である。日本周辺には世界中の地震エネルギーの1/6、火山エネルギーは1/6が発生している。国土の面積は0.074%のため、地震エネルギーは平均の170倍も多い。
・人口稠密な社会
・軟弱地盤。海岸や河川敷に人口が集中している。
これまでの地震危険度評価では人口稠密度のようなものは直接評価されていない。
◆過去の震災の発生。
死者1000人以上の被害がでた地震は、過去100年間で11回ある。1948年の福井地震から1995年の兵庫県南部地震の47年間は静穏期であった。しかし、死者100名以上(主に津波による)の地震は発生している。
◆活断層。
地盤調査研究推進本部地震調査委員会では、活断層の調査を行い、危険度を公表している。例えば、「数百年以内にM8(±0.5)程度の地震が発生する可能性がある」など。人間の時間感覚からすれば数百年とは非常に長いが、地質から言えば、それほど長くない。明日発生してもおかしくないくらいかもしれない。
今後30年の地震発生確率についても
宮城県沖地震 90%以上
東海地震 36%
東南海地震 50%
南海地震 40%
となっている。これらの発生確率はどのように計算されているかよく分からないが、90%以上ということは必ず発生する、ということであろう。
◆首都圏。
首都圏に人口が集中している。被害想定でも全国一律のやり方で評価している(同じコンサルタントに依頼すれば同じ手法をとる為)。地域の特性(産業構造など)が反映されない。
東京直下地震としては、
元禄地震(1703)
安政江戸地震(1855):M6.9
明治関東地震(1894):死者24名程度。木造被害率0.5%程度。
関東地震(1923)
などがある。
関東地震については、断層モデルを使った研究がなされてきている。いろいろな研究があるが、断層モデルの大きさは約100×50km、神奈川県の直下に想定。建物の全壊棟数は、神奈川県が63000棟、千葉県が31000棟、東京府が20000棟と、神奈川県が最も多い。なお、全焼棟数では東京が最も多い。発生した地震の大きさとしては、あるシミュレーションでは最大速度240cm/sというのもある(第27回地盤震動シンポジウム(1999))。最大速度200cm/sくらいは考えられるものと思う。
◆阪神の教訓。
"震災の帯"。地震基盤からの地震波の増幅を考える必要あり。基盤構造の調査が進められている。地震被害が相互に関連しており、それが被害を拡大させている要因となっている。
そこで、通常時の地域活動力を評価した上で、地震時の地域活動力の低下率で危険度評価を行うことが考えられる。
地域活動力は、社会活動力と経済活動力の和で表す。今日の資料(*参考文献1〜2)はこのうち経済活動力のみを評価した。経済活動力の評価では、それぞれの地域での生産活動、物流活動、供給活動を評価し、各地域間での相互作用を活動指標として考慮する。こうすることで、震災が経済活動力へ与える影響を評価可能とする。都心と都心周辺部との活動力の低下を示すことが可能。
例えば、東京都千代田区では、建物被害は少ない方であるが、経済力低下は大きいという結果となった。これは、従来の手法とは異なった評価を与えている。
阪神淡路大震災での被害総額は約10兆円と言われている。これらの研究から大ざっぱにいって、東京区部直下地震では100兆円(他のシンクタンクの予想とも整合している)、南関東地震では240兆円の被害額が予測される。東京、神奈川、埼玉、千葉の年間予算が11兆円程度であることを考えれば、莫大な被害額であることがわかる。
(文責:高山峯夫)
◆参考文献
1)田邊,長橋:地域活動力を用いた地震危険度評価に関する研究 その1,日本建築学会構造系論文集,第543号,pp.183-190,2001年5月
2)田邊,長橋:地域活動力を用いた地震危険度評価に関する研究 その2,日本建築学会構造系論文集,第551号,pp.29-36,2002年1月
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