◆ 第25回研究会 概要

講 師:林 康裕先生(京都大学防災研究所)
テーマ:次世代の設計用地震荷重設定に向けて -限界耐力計算の現状と今後の展望-
(平成14年5月8日,(株)巴コーポレーションかちどき泉ビル3階ホール,参加人数36名)

まずは自己紹介から。
昭和57年に京都大学を卒業し、大学院修士課程へ。大学院終了後、清水建設大崎研究室に16年間勤務。平成12年より現職。研究では、地震動から建物までをトータルに扱うことをモットーにされている。

今回の基準法の改正で、地震荷重についてもスペクトルで規定されたが、地震荷重だけを変えれば建物が安全になるとは考えられない。

最初に限界耐力計算における地震動の決め方についての説明のあと、地盤増幅率Gsの求め方をより簡便に求める方法を提案。Gsを求める現行の手法は複雑でどれが重要なパラメータなのかなかなかはっきりしない。この手法を使えば、弾性時の1次周期と弾性時のインピーダンス比が大きな影響をもつことが明らかとなった。

また、工学的基盤をどこのとるかも大変大きな影響を与える。単に、せん断波速度400m/s以上と言われているが、深い地盤を設定するほど、入力は小さくなることもある。即ち、工学的基盤の設定位置によって、建物の性能を大きく左右する可能性がある。
Gs評価式の適用条件としては、液状化が起こる場合には不可で、地盤のせん断ひずみは1%程度までが限界。Vsの設定ではPS検層の実施が望ましい。N値からの推定はばらつきが大きい。地盤の非線形性の評価において、地盤ひずみ0.3%以上のデータは非常に少ない。また、告示に示される減衰特性は実験結果よりも大きな値となっており、結果的にGsを小さく評価することになる。

相互作用(周期調整係数、逸散減衰、入力低減率)を考慮することで、地震荷重が結果的に小さくなっている。改正基準法での地震荷重は新耐震と同等と言われているが、相互作用効果を考慮することで、入力を低減していることになる。

大阪での実例の話。15階程度の板状マンションなどでは、変形能力を上げることで耐力を落としている例が見られる。安全限界の時のDs値が0.3以下のものも見られる。損傷限界の時のベースシアが0.2〜0.1の建物となっている。

限界耐力計算では、建物の復元力特性とSa−Sdスペクトルを比較している。これでは性能がつかみにくいので、建物の性能を荷重に換算する手法を提案。詳しくはPDFファイルをご覧下さい。(資料1, 資料2, 資料3)

これまで地震の被害が発生すると国や学会は構造詳細の規定を改正してきた。これは、設計時の地震荷重の増大に等価といえる。しかし、地震荷重だけを大きくすれば、建物が安全になるとは限らない。

(地震荷重)←→(設計用解析モデル)←→(設計クライテリア)をトータルに考えることが、建物の安全性の確保に繋がる。

(文責:高山峯夫)

★出典:
◇資料1
設計用入力地震動はどうあるべきか, シンポジウム「建築基準法改正後の実務設計がどう変わったか その実例と解説」, 日本建築学会近畿支部・建築業協会関西支部, pp.87-94, 2002年2月
◇資料2〜 資料3
日本建築学会大会学術講演会梗概集, 構造I, 2002年8月


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