講 師:鈴木 計夫先生(福井工業大学教授・大阪大学名誉教授)
テーマ:プレストレス構造の設計とRC造・木造の耐震補強に関する最近の話題
(平成14年8月21日,新日本製鐵竃{社ビル1階イベントエリア,参加人数34名)
鈴木先生のご講演のトピックは、
1.プレストレス技術の利用とPC構造設計の基本
2.コンファインド補強法とSoft-First-Storyへの適用
3.粘性ダンパーを用いた木造建物の耐震補強
4.自然現象・動物の異常行動に基づいた自衛的地震予知の取り組み
であった。非常に盛りだくさんで、幅広い内容となっている。
最初に略歴、それも隠れたプロフィールをご紹介頂いた。
中学時代には地震計や風力計を自作され、(今でいう)文化祭の時には展示もした。その後、京都大学に進学され、4年の時には小堀先生について振動論を学んだ。その時、耐震設計では「変形」というものが非常に大切であるということを痛感した。大学院修了後、大林組へ就職されたものの、PC構造の勉強のために再び1年間京大へ。PC構造の設計、現場管理もしたことがある。結局、9年間大林組に勤務。
そして、最初のトピック。まず、技報堂から出版されている「魅力あるコンクリート建物のデザイン」(監修:鈴木計夫)の紹介。その中から、大阪市中央体育館(半分地下で、屋根に土を盛って公園になっている。なお、この体育館の設計では鈴木先生のアイディアが一杯盛り込まれているとのこと)、空港旅客ターミナルビル(40スパン)、パリ新凱旋門などを紹介。PC構造は組み立て・解体が楽で、高耐久である。阪神淡路大震災の時にPC構造の被害は3例あると報告されているが、PCそのものが損傷して例はなく、その支持構造が損傷した例がほとんど。
続いて、PC構造の簡単な計算式の説明があった後、PC構造に関するトピックの紹介。
・孔あきPC梁 プレストレスをかけた後、梁成の1/3位の孔をあけた。圧縮力が増加するので、せん断抵抗力が増えて、孔がない梁よりもいい性能を示すことが分かった。
・アンボンドPC アンボンド剤としてアスファルトを使うと、エネルギー吸収が期待できて、制震構造として使える可能性がある。
この時点で優に二時間近く経過している....
2番目の話題。
コンファインドコンクリートに入る前に、地震力の大きさについて。
地震入力としてレベル2で50kine入力といわれているが、観測事実はそれよりも大きな地震動を記録している。地震計の記録がそのまま建物に入力されるわけではないであろう。建物の規模が大きくなれば、相互作用、入力損失などがおこるであろう。しかし、地震動を侮ってはいけない。50kine以上の入力にいかに対応するかも考える必要があるのではないか。
ピロティ構造の被害として、オリーブビュー病院の被害が有名。鈴木先生はその被害を実際に視察された。柱の破壊形式についてよく見てみると、太径の鉄筋(座屈しない)を使い、密にフープ筋をまいている。柱の上下端部に塑性ヒンジができておらず、柱全体が変形している、ことがわかった。コンファインドコンクリートになっていた!
そこで、コンファインドコンクリートを利用することで、大きな水平変形に耐えることができるピロティ構造を実現できる。ただ、1層だけでは変形量が足りないので、2層分の柱をコンファインド補強をして、3層以上の建物を守るシステムができる。実際に解析を行ったところ良好な結果が得られた。
そのほか、小試験体を用いた実験結果を実大に当てはめる場合には、単にスケール倍するだけではダメで、小試験体の挙動を再現できるディテールに変える必要がある。コンファインドコンクリートの柱の実験では、部材角1/10位までは平気である。詳細は、日本コンクリート工学協会の「コンクリート構造物の靱性設計手法に関するシンポジウム論文集」(2001.11.30)を参照ください。炭素繊維補強は終局では、"ぶちっ"といって炭素繊維が切れるので、あまり良くない。RC柱の2方向地震入力に対する挙動は、1方向入力とは大きく異なる、など。
この時すでに、終了予定の5時となったので、3番目と4番目のトピックについては、本当に簡単にご紹介頂いただけとなった。
3番目は粘性ダンパー(仕口ダンパー)を用いて木造建物を補強するもの。現在、関西で「木造建物の耐震補強を考える会」が発足し、普及をはかろうとしている。会の代表は、樫原氏(鴻池組)、鈴木先生、永谷氏(能勢建築構造設計事務所)。標準的な住宅で、1棟100万円以下の費用を目指している。
4番目は、自然界の前兆現象(イオン濃度、動物の行動など)をとらえて短期地震予知をおこなおうという試みの紹介。自衛的地震予知連絡(協議)会を設立し、具体的な活動に乗り出す。詳細は、岡山理科大学PISCOのホームページ(http://www.pisco.ous.ac.jp/)を見てください。
以上、鈴木先生には多くの話題を準備して頂きましたが、申し訳ないことに時間が全く足りませんでした。また、機会をつくってお願いしたいと思います。
(文責:高山峯夫)
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