◆ 第39回研究会 概要

講師:石川孝重先生(日本女子大学)
テーマ:「安全から安心→信頼社会に向けた建築−安全性レベル選択の推進−」

講演のトピックスは以下の4項目。
1)建築をめぐる社会・市民の動向
2)今後の設計 アカウンタビリティーと品質保証
3)市民の求める耐震安全レベル
4)ユーザーに分かりやすい設計体系を目指して

トピック1:
社会は情報化がすすみ、社会構造も変化している。市民・個人のニーズも多様化している。個人および社会活動に障害がでることは許されないし、迅速な復旧が求められる。しかし、現実は建物倒壊、機能保持に関する市民の意識は高くない、防災意識が低い。
安心社会から信頼社会へ:制度が遵守されるという信頼、情報の透明性が求められる。行政まかせの安心社会からリスクコミュニケーションへ。

女性585名を対象としたアンケート調査(1999年実施)からは、
住宅で重視する性能は、構造安全性が通風・換気とならんで高い
自分で安全性レベルを決めたいという割合が高くなった
自分でレベルを選んだのだから納得できるが半数以上
という結果。性能を選べる状況にしないといけないのではないか。

信頼社会と自己責任の社会へ:
・どんなものをつくったか?→ どのレベルの性能か、の説明と明示
・専門家、ユーザー、行政それぞれの立場・職能に応じた自己責任が要求される時代へ
・性能が高くなれば、最低限の知識と対話が必要

トピック2:
インフォームドコンセント=事前の説明と同意。建築界にもこれが必要である。品確法は9項目あるが、とりあえずつくれるものだけ作ったというのが現状。項目は不足している。ユーザーではなくメーカー・工務店には浸透している。

1997年のアンケート調査では、ユーザーの求める強度と設計者の考える強度に差があった。ユーザーは震災前の1.5倍程度が多いのに対し、設計者は震災前の1倍が多かった。
設計者は市民に信頼されているか?
構造性能の保証は現実的に可能か?
市民の生命と財産を保全しているということを自覚しているか?

品質保証をする上で、設計内容のチェック体制をどうするか、フェイルセーフ、第三者保証を考える必要がある。契約社会ではユーザーが自立する必要がある。そのための情報を提供する必要があるし、建築主と設計者との責任分担も考える必要がある。

トピック3:
構造安全性レベルの定量的評価として、ユーザーがもつ住宅価格と安全性の関係を分類し、アンケート調査により検討した。ユーザーに分かりやすい安全性指標は「震度階」であった。ユーザーのコストと安全性のイメージは、ある領域まではコストと安全性は比例関係にあるが、あるポイント以降(それ以上はお金をかけても)は安全性の上昇はなくなるというものが多かった。そのポイントは標準的なコストに比べ+10%程度。
このトピックに関しては、「社会的に要求される耐震安全性レベルの確率論的評価」(日本建築学会構造系論文集、543号、2001年)を参照ください。

トピック4:
この部分は時間がなく、簡単に触れられた程度。耐震安全性は、地震の再現期間が長いので、ユーザーの実感が伴わない。そのため、振動に対する居住性評価を性能評価に取り入れるという提案。建築雑誌(2004年7月号)に環境振動の新展開として研究状況が報告されていますので、参考にしてください。

最後に、日本女子大学の生涯学習センターの紹介があった。いつでも、どこでも、誰でも学習できる環境を構築されており、興味深いトピックが自由に閲覧できるようになっている。WEBサイトは、http://lcc.jwu.ac.jp/


(文責:高山峯夫)

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