講演する川合氏
講演する多田氏
日時:平成16年12月21日
講師:川合廣樹先生(ABSコンサルティング)
テーマ:地震リスクと免震建物、物流倉庫の事例
川合先生は、1999年に38年間勤務された日建設計を退社され、1999年2月からEQEインターナショナルへ勤務。
リスクマネージメントは、科学技術と金融の分野にまたがる業務。
リスクマネージメントは、以下の流れとなる。
1)発見(Identify) 地震、ハリケーン、テロ、火災など
2)評価(Assess)
3)管理(Manage) 保険、耐震補強など(建物の収益性により対応が異なる)
例として、アンハイザー・ブッシュ社のビール工場の説明。
1954年竣工。評価額は1200億円。
まず、PML(Probable Maximum Loss)を調査し、評価する。PMLの平均を15%以下とするために16億円を投資して改修。ノースリッジ地震を経験したが、耐震改修をしていたために、死者0名、被害は30億円程度ですんだ。もし、耐震改修をしていなければ300億円の損害が予想された。
このように、リスクを想定し、それを「金額」で説明する点が新鮮であり、説得力を持っている。我が国の耐震改修に際しても、このような観点が是非必要であると感じた。ただし、リスクやそれに伴う損害を定量化するには、莫大なバックデータが不可欠である。そのための情報を蓄積することもやっていく必要がある。
最後に、免震を採用した物流倉庫の話題。
延べ床面積15万m2、積載荷重は1.5t/m2、階高7mの7階建て。270体の積層ゴムとU型ダンパーを採用。PMLは10%以下。免震装置のコストは工事費の4%。
投資とリスクの観点からPMLを下げるための工夫が凝らされた建物といえる。今後、同様の物流倉庫を建設する予定とのことで、一般認定をとるべく作戦を練っているとのこと。
耐震設計の世界に新しい観点を持ち込んで、建物の性能を評価しようとする点は非常に興味深かった。こういった話を聞いていると、基準法で決められた地震動のレベルとかいうものに拘泥しているのが変にみえてくる。コストと性能という数値化できる分かりやすい「物差し」で評価されているところが新鮮であった。
配布資料:PDF(印刷不可)
(文責:高山峯夫)
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