日時:平成17年4月20日(水)
講師:豊島光夫 先生(元東急建設専務・東急工建社長)
題目:東京タワーは曲がっていなかった
講演のタイトルは、「東京タワーは曲がっていなかった」(文芸社、2005.3)による。
豊島氏は戦後間もない時代に東京都庁建築局に勤務され、数々の建築に関わってこられた。
港区の建築確認を担当していた時代に、東京タワーの確認が提出された。
高さが高さなので、建築物とすれば高さ制限(100尺)に抵触する。そこで、建設省にお伺いをたてたところ、常時人が居住しているわけではないので、「工作物」と考えて良いという回答を得た。
次に、鉄骨の接合には、リベットと溶接しかなかった時代。高所の作業でリベットを扱うのは危険である。そこで、下層部(高さ140m以下)はリベットとし、それ以上の部分には高力ボルトを使用した。
設計用の風荷重に、当時法規で規定してあった60√hを使うと、荷重が過大になるため、アメリカの基準を使用することにした。それでも地震力よりも強くなった。
東京タワーの高さは、電波を所定の範囲に届くようにするには、最低の高さは250mとなり、そこから上方に各TV局のアンテナを取り付けることになった。各社のTV局が10mくらいのアンテナ設置長さが必要とすれば、8社×10mで80mの高さが必要となる。そのため、タワーの高さとしては少なくとも330mが必要となった。
エッフェル塔と比べると、高さは東京タワーが若干高い。風荷重は頂部で500kg(東京タワー)と400kg(エッフェル塔)でそれほど変わらないものの、東京タワーの重量3500tonに対して、エッフェル塔は7500tonと倍以上ある。これは外観をみても分かるとおり、エッフェル塔の方が装飾が多いせいか。
東京タワーを都民が初めて目にしてから、曲がっているのではないか、倒れてくるのではないかといった問い合わせが多くなった。そこで、下げ振りを使って実際に調査をしてみたら、頂部が8cmだけずれていた。部材角で1/4000でしかなく、これが、本のタイトルになった。
東京タワーには、当時の地震計が設置してあるそうだが、まだ機能しているのだろうか。
地震時の建物挙動を知るには、地震計などによる記録が必須となる。近年は超高層建築が普通になり、地震計も設置されていないのではないか。設置されていても管理されずに放置されていないか。地震による建物の揺れを確認することは建物の設計法、解析法を検証する上で欠かせない。我々は建物の地震時の挙動を完全に理解できていないのであるから、地震という自然現象に真摯に向き合うことが肝要であると感じた。
東京タワーの話題の他、お風呂やさんの煙突の改修、補強の問題、新潟地震の被害調査、建物の移転工法(ひき家)についてなど、懐かしい写真とともに話をして頂いた。
(文責:高山峯夫)
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