◆ 第44回研究会 概要

日時平成17年6月29日(水)
講師:中塚佶 先生(大阪大学)
題目:PC構造における性能評価型設計への動向

概要:
中塚先生は大阪弁で歯切れ良く説明をされ、PCの現状についてとても理解を深めることができました。またPCのシェアが拡大しない点は、性能は良いけどコストが高いと言われたり、研究者が少ない(即ち、若者が教育を受ける機会が少ないということ)などいう境遇は免震構造と似ていると思えるところも多く、共通点あると感じました。

講演にあたり、まず、出席者にPCの設計をされたことがあるかどうか問われましたが、1人もいませんでした。PCの設計は、クリープや2次不静定力という問題もあるけれどRCの柱の設計と全く同じ。更に、PCの緊張力の入れ方で荷重−変形関係を制御できるすばらしい工法である。

RC造の性能評価型設計法が2004年に建築学会から出版され、性能評価型に移行しようとしているのに対し、PCは移行に手間取っている。それは、1961年以降、40年以上も終局強度設計を行ってきており、その呪縛から逃れられないでいるから。それを何とかしようということで建築学会の委員会において議論をしている最中とのこと。

講演ではPC構造の4つの課題について説明されました。

【1】材料損傷度と関係づけられた荷重−変形関係の推定
荷重−変形関係を考えて設計することが重要である。
付着強度を上げることに、それほど意味はない。付着強度が小さいと、ひび割れが少なくなり、付着が大きいとひび割れが多く発生し、曲げひび割れも発生する。PC鋼材をいつ降伏させるのかが重要。
分からない式が与えられていて、定義も曖昧。これに関連して法律で細かいことを規定するのは良くないとも。

【2】残留変形の解明
PC鋼材を降伏させても履歴面積はそれほど大きくならず、エネルギー吸収は殆どしない。PC鋼材が単なる高強度鉄筋として働くだけ。
残留変形が小さいのは純PCである。残留変形が、PC、PRC、RC造の性能評価の基準として利用できるのではないか。性能評価型設計に持ち込むには、使用限界状態などを規定する必要があり、その時に残留変形を利用できないか。

【3】各種限界状態のクライテリアの試案
クライテリアを考える場合に、RC造と同じ土俵にいたくないし、いる必要もない。PCの設計クライテリアをRCよりも拡大しないとPCのメリットがでない。使用限界状態として、コンクリート強度Fcの2/3以下にされるとPCは存在できない。いま、このあたりをどうするか、学会でも議論している。

【4】付着とその影響の明確化
付着はなぜ必要なのか。強度型設計では小変形時の耐力確保が必要だから。性能設計では本当に必要か?
付着はせん断力を伝達する。そうするとコンクリートのせん断ひび割れが発生することになる。

講演の中でも説明がありましたアンボンド化による靭性型破壊モードへの移行、制振ダンパー的な挙動の実現、免震構造とアンボンドPCの組み合わせなどPCをうまく活用することでいろいろな発展があると感じました。地球環境問題も見据えて、PCを使ってリサイクルできるシステムについても研究を展開されているとのこと。今後の展開が期待される。

文責:高山峯夫

Copyright© 耐震工学研究会 2005