日時:平成18年8月11日,日本大学理工学部1号館会議室
講師:田治見宏先生(日本大学名誉教授)
テーマ:RC建物の耐震性能計算に関連して
概 要:
田治見先生に本研究会で講演をお願いしたい旨の手紙に対して、先生からお手紙をいただいた。その中で「いま暇つぶしにパソコンをいじっています。私は実務を知らないのですが、学会の『RC靱性保証1999』とか『RC性能評価2004』をみると盛んに漸増載荷解析が行われていますが、かつて学校時代には学生にフラットな塑性域部分では力の釣り合い式が成り立たないということをさんざん教えてきたので、奇異に感じています。(中略)構造特性係数の説明ではきまってエネルギーで説明しています。それならば、初速度に応答スペクトルのSvを与えて行う動解を1/4周期だけ計算すれば済むわけで、そこでは構造特性係数を使わずにすみます。(中略)敢えて命名すれば初速度法ということになります。」というお返事をいただき、研究会では初速度法について解説をお願いしました。
ご講演では、建築学会の鉄筋コンクリート造建物の耐震性能評価指針(案)・同解説(2004)に掲載されているRC造12階建ての建物を対象に初速度法を適用された結果をご紹介いただいた。詳しくは資料を見ていただくとして、得られた結果は以下のとおり。
・初速度法の場合は、地震動のSv値そのままを入力値として用いることができる。
・増分解析法の場合は、そこで使う入力としてのベースシア係数は前もって行う試行計算の結果として求めている。従って、ベースシア係数は被害予測のランク付けに用いている。
・増分解析法では層せん断力係数分布は入力として与えられるが、初速度法は動解の結果として得られる。動解では周期の伸びが影響し、上層ほど層せん断力係数が大きくなっている。
研究会のために70ページ近い資料をご準備いただき、さらに自作のコンピュータプログラムとデータを入れたフロッピーディスク(FD)までご準備いただきました。先生の研究に対する情熱はまだまだ冷めることはないようです。ところで、解析プログラムのFDのコピーが欲しい方は事務局までご連絡ください。実費にて頒布します。
なお、田治見先生からプログラムに関して以下のコメントが届いていますので、ご注意ください。
「このフロッピーは初速度法と漸増載荷法の違いについて、例題を通して理解する目的で作成したものです。例題は学会本から選びましたが、完全にトレースしたわけではありません。例えば、耐震壁の剪断強度の場合について申しますと、この剪断強度には梁端降伏モーメントのような明確な降伏強度がありません。そのため学会本には終局強度は記載されていますが、降伏強度の代わりになる2次折れ点強度の記載がありません。そこで、このプログラムでは、とりあえず壁筋のみが全部降伏するときをもって、2次折れ点と仮定しました。終局時はさらに梁を貫通する剪断破壊が生じたときとされています。このように入力データ作成ファイルには私の個人的な判断が入っていますので、この点をご理解の上、適宜改善されて使用して頂ければ幸いです。」
文責:高山峯夫
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