講 師:倉本 洋 先生(豊橋技術科学大学 助教授)
テーマ:「限界耐力計算の課題と今後の展望」
概 要:
倉本先生は建築研究所に在任中は限界耐力計算法の立案にも係わった一人であり、2001年に大学に移られてからも限界耐力計算の研究を継続されている。今回は倉本先生に限界耐力計算の先端的な研究と姉歯事件を受けて改正されようとしている点(問題点)について話をしていただいた。実務に直接関わるような話題だと、参加者が急増して78名となった。そのうち研究会の会員外からの参加者も多かった。
最初に構造計算偽造問題に関しては、インチキ、都合の良い解釈、能力不足が考えられる。能力がなくても構造計算はできるし、情報不足・教育不足も問題だ。
そもそも、許容応力度計算(新耐震)は正しいのか? 新耐震もマルチスタンダードで、ルート1〜3まである。限界耐力計算はある意味、ルート4ではないか。新耐震の保有耐力の計算法に一貫性がない。Qu/Qunが1.0以上を求めるだけになっている。
原理・原則が学術研究をベースとして構築され、その周辺に法の許容範囲が存在する。ただ適用範囲が明確でなくなってきているが、姉歯は完全にその外に出てしまった、と捉えることができる。
姉歯の問題をうけて基準法の改正が6月に予定されている。構造基準検討部会の下の限界耐力SWGでは、表層地盤の増幅特性、損傷限界における必要耐力の設定、安全限界の設定法などを検討している。今後、告示案が公開されていく予定。最低損傷限界耐力として、Co・Rt=0.2Rtを確保するようになる。今後の課題としては、高次モード応答の評価、制震建物への適用などがある。
限界耐力計算について、先端的な研究も含めて紹介があった。高次モード応答の評価、ねじれ応答への適用、壁・フレーム建物の応答などについて解説があった。1時間足らずで説明していただくには盛りだくさんの内容であったが、こうした研究により地震応答の本質を理解することが可能となる。そういった理解に基づいて、耐震設計で重要な最大応答値を予測できるようにしたい。そうすることで、原理原則を大きくし、法の運用の範囲を狭くしていくことが、重要ではないか。今後そういった方向で研究をすすめていきたいとして、講演が締めくくられた。
質疑応答:
Q:限界耐力計算法の原理原則について今後の展開を期待したい。限界耐力計算は、1次モードだけなんだという受け取り方が普及している。1次モード以外の応答評価ができるという話であったが、それをどこまで考慮していくのか。構造物に応じてどのモードの影響を受けるのは変わってくると思われる。
A:何をどこまで考慮すべきなのかは良く分かっていない。それが適用範囲になると思うが、現状は手探りで解析をしている。建物の高さ方向の特異性についてはこれまでのやり方でいけそうだが、ねじれに関しては難しい。1次モードだけが卓越するとは限らないので、1自由度系に縮約できない。ツインタワーなども1自由度系にはできない。1方向の地震入力に対する応答評価が基本であり、2方向入力も難しいのではないか。
Q:ねじれの問題で、重心がずれている場合にはどう考えれば良いのか。現状ではFesで考慮しているだけ。
A:セットバックしているような問題はいまトライしようとしている。直感的にはできると思っている。ただ適用範囲をどう設定するのかが問題となるかもしれない。応答のドリフト(心ずれ)の問題が大きい。復元力特性と地震波との関係でドリフトの程度が異なってくる。ドリフトが発生すると限界耐力計算法と対応しなくなるので、重要な問題だ。高次モードの影響よりも大きくなる。
Q:等価線形は原点対称のものを対象としているが、それに該当しない最たるものがP−δ効果。これを解決しないと大変形の限界状態を設定することはできない。1/100とか1/120とかを超えようとすると、P−δ効果の影響を考慮すべき。
Q:立体解析ではねじれエネルギーが入っている。Fesはペナルティーでしかないので、立体解析をした場合にはFesを外してもよかったのではないか。
A:2次設計といえども1次設計の力に基づいて求めている。地震応答が大きくなるとねじれないかもしれない。
Q:限界耐力計算法の見直しについて、もう少し詳しくご説明いただけないか。
A:間違ったことを言ってしまうと差し支えがあるので、今月中に告示が出てくるので、それを見ていただくのが良い。告示はたくさん出て、身動きができなくなる可能性がある。指導課はできるだけ書き直すということを言っている。が、担当者が変わればどうなるか分からないので、できるだけ設計者が声をあげることが重要。
文責:高山峯夫
Copyright© 耐震工学研究会 2007