講 師:三宅辰也氏(日本システム設計)
テーマ:「耐震設計における最大応答と累積応答の関係について」
概 要:
現在、建築物の構造計算の方法には、許容応力度等計算に加え、限界耐力計算、エネルギー法が規定されている。限界耐力計算は多層建築物を等価1自由度系に置換し、等価線形化手法を用いて応答変位を求める手法である。一方、エネルギー法は地震による入力エネルギー量と構造物側で吸収されるエネルギー量が等しいという条件のもと応答を求める手法である。エネルギー法では直接求まるのは「累積塑性変形量」であり、最大変形を求めるには何らかの変換が必要となる。限界耐力計算では「最大変形」を直接求めることができ、累積変形には着目していない。
三宅氏は、構造物の限界とか破壊というものを規定するには、最大変形とか、累積変形(エネルギー)とかの一方だけでは不足で、両者の関係が必要だとしている。下図に示すようにエネルギーと変形量の関係で破壊あるいは限界を規定しようという試みである。限界曲線は材料の特性や地震動の継続時間などによっても影響を受けるものの、この曲線を定式化するために地震動を簡単な確率モデルに置き換えて、検討した。
定式化の詳細は、「耐震設計規範としての最大応答と累積応答の関係に関する考察」(日本建築学会構造系論文集、No.599、2006.1)を参照のこと。
今後の課題としては、
・限界曲線の精度向上、特に継続時間が長い地震動データの蓄積。
・限界曲線データベースの構築。低サイクル疲労試験に基づく疲労寿命特性の実験データの蓄積。
・設計用地震動の与えられ方。応答スペクトル、エネルギースペクトル、継続時間のうち、いずれか2つが必要となり、応答スペクトルだけを規定するだけでは不十分。
このような検討は建築物の耐震性を評価する上で非常に大切なことである。建築物が壊れるのは、変形なのか、エネルギーなのか。構造計算手法に従うだけでなく、真の耐震性能を評価するためには実験データの蓄積、評価手法の検討がまだまだ必要であるということを知ることができた。
文責:高山峯夫
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