◆ 第55回研究会 概要

講 師:翠川三郎先生(東京工業大学)

テーマ:「入力地震動に関わる最近の話題」


  


概要:

近年、長周期地震動による高層建物の振動問題や従来よりも大きな地震動が震源近傍で観測されるようになった事実などを踏まえ、東工大の翠川先生にご講演をお願いした。特に、長周期地震動問題と新潟県中越沖地震動について話をしていただいた。

まず、長周期地震動は、2003年十勝沖地震の際の苫小牧でのタンクのスロッシングにより注目されるようになった。発生の要因は、盆地構造により表面波が反射屈折を繰り返して発達することと、地震の規模が大きい場合というのがある。1923年の関東地震の際にも震幅12cm以上の揺れが5分以上継続したという記録もある。想定されている東南海地震ではこれの2倍くらいは揺れるのではないか。我が国の都市部の大部分は盆地構造の上にあり、長周期地震動の発生は避けられない問題とも言える。

問題は建物がどれくらい揺れるか?

減衰性能が低い高層建物では大きな揺れが長時間続くことになり、家具の転倒・移動、長時間の揺れに伴う恐怖感、エレベータの停止による避難の問題などが危惧される。対策としては、制震・免震工法による補強で、揺れを小さくすることであり、ソフト対策としては、緊急地震速報の活用、避難訓練の実施、マニュアルの整備などが重要と言える。

次に2007年中越沖地震による柏崎刈羽原発での地震観測記録について。刈羽原発で観測された地震動には3つのパルスが見られる。これは断層において大きな破壊(アスペリティ)が3カ所で発生したことを示している。破壊の方向(波動の出方)や破壊のタイミングによっては、発生したパルスが重複して大きな震動になることもあるし、それほど大きなものにならないこともある。

原子炉建屋1号機と5号機の近くの地表で観測された地震動は速度応答スペクトル(水平2成分のベクトル和、減衰5%)で300cm/sにも達する。また1号機と5号機の観測点は1.5km程しか離れていないのに、波形の形が違う、パルスの出方が異なっている。地盤構造の違いが影響しているのかもしれないが、今後の研究が必要と思われる。

原子力発電所の設計値を超える地震動が記録されたが、構造体には損傷はなかった。それは原発の設計に大きな余裕を見込んでいるためである。原発として放射能漏れなどを防げたという点では良かったものの、機能が停止したままになっていることは大きな問題ではないか。

この地震による教訓としては次の点が指摘できる。

     ・限界に近い地震動を事前にどこまで想定できるか?

     ・想定された地震に対し、どこまで地震動を正確に予測できるか?

     ・想定を超える地震動の存在を考慮して、構造物側の安全性をどこまで考慮すべきか?

     ・原発本体だけでなく、施設全体システムの耐震安全性をどのように考えるべきか?

社会として求めている耐震安全性とはどういたものか。人名保護だけか? 財産保護や機能維持まで含めたものなのか。構造的な耐震安全性の検討だけでなく、機能維持まで含めた総合的な耐震安全性の検討が必要な時代になったのではないか。

参考までに、柏崎刈羽原発の1号機(1G1)と5号機(5G1)近くの地表で観測された速度応答スペクトルを紹介しておく。減衰5%20%の場合を示している。1号機地表による応答は5号機に比べて大きなものである。また減衰定数を20%にすれば短周期域での応答は小さくなるものの、やや長周期領域における応答はそれほど小さくならない。

  

 

(文責:高山峯夫)

 

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