◆ 第60回研究会 概要

講 師:笠井和彦先生(東京工業大学・教授)

テーマ:「E-defenseにおける鉄骨構造崩壊実験結果と制振構造実験結果概要」 

◆鉄骨構造の崩壊実験  4層の実大建物を使った実験で2007年9月に実施された。試験建物の1次固有周期は約0.9秒で、0.03H(H:建物高さ)で推定される固有周期に比べると長くなっている。低層の鉄骨建物の固有周期は0.05Hくらいあるのではないか。建物の重量は約210tonで、1階の耐力は設計用せん断力で0.5程度となっている。
 実験では兵庫県南部地震の際のJR鷹取駅波を用いた。鷹取波の60%レベルを入力したところ、層間変形角は1/50程度に達し、塑性化が進行した。入力レベル100%では1階の柱に局部座屈が発生し、層間変形0.2radで耐力がなくなり、崩壊にいたった。0.08秒という非常に短い時間で、完全な崩壊に至ったことが実験データから確認された。
◆制振構造の実験  制振構造は実建物に採用されているが、大地震の経験はない。大地震時の応答を評価するために5層の鉄骨建物を製作し、4種類の制振用ダンパーに対する応答を検証した。制振ダンパーはブレースタイプの、鋼材系(アンボンドブレース)、粘生系、オイルダンパー、粘弾性ダンパーとした。ダンパーは1層から4層まで、各層に3台、計12台設置した。
 鉄骨試験体の重量は、崩壊実験の試験体よりも規模が大きいため、480ton。さらに4種類のダンパーを取り換えながら実験をするために、通常よりも頑丈に設計している。JR鷹取波100%入力に対して、層間変形角が1/100程度になるように設計されている。ダンパーがない場合の固有周期は0.74秒。計測チャンネルは1328chで、これまでのE-defenseでの実験で最大だったとか。制振実験は今年の4月に実施された。
 実験の結果から、いずれのダンパーでも制振効果が発揮され、目標性能を達成できた。アンボンドブレースの累積塑性変形倍率は100程度で、それほど厳しいものではない。ダンパーのエネルギー吸収性能を限界近くまで使うような設計をした場合、どういう応答になるのかを検証する実験にしても良かったのではないか、といった意見も会場から出ていた。
 制振実験では、非構造部材も取り付けられており、非構造材の挙動も確認されている。その中で、天井が落下しないような新しい仕様(天井の吊り材にブレースを入れ、周囲に隙間を設ける)が国交省から助言されているらしく、それと従来の天井仕様の比較も行われた。JR鷹取波40%入力で、国交省の助言仕様の天井は落下してしまったとのこと。
いずれにしろ、このような大型の実験により地震時の建物の挙動が解明されることは、耐震設計の発展にとって有意義なことである。なお、E-defenseでの実験データは2年過ぎれば、公開されるようになっているとのこと。
(文責:高山峯夫)