講 師:石丸辰治先生(日本大学元教授・(株)i2S2技術顧問)
テーマ:「MCK(質量・粘性・剛性)調整による新しい構造設計
−45年の研究を振り返って−」
2009年3月に日本大学を退職された石丸先生に上記のテーマで講演をお願いした。講演の内容は日本大学での最終講義をベースに組み立てていただき、45年の研究を振り返る内容であった。
石丸先生の研究生活は、田治見先生の下で始まり、塑性率を制御するような設計の提案も行った。しかし、1970年代では「制御」という言葉は学会などで受け入れられなかった。しかし、免震構造が実用化されると、制御という概念に抵抗感が減ってきた。そして、1980年代には大型TMD(同調質量ダンパー)により高層建物の応答制御の可能性などを提案した。
従来の耐力設計からエネルギー吸収性能設計の時代へと設計概念の変革がおこった。 ところで地震によるエネルギー入力はどれくらいか。地震による総エネルギー入力量は、通常の地震動レベルでは等価速度で150cm/s程度だといわれている。建物の重量を10000tonと仮定すれば、エネルギー量は建物総質量に速度の2乗をかけて2で割ればいいので、約1150ton・mとなる。1Kcalは約4.2kN・mなので、建物への総エネルギー入力は約2700Kcal程度となる。これは、お風呂の水(200リットルとする)を13.5℃上昇させるエネルギーでしかない。あるいは人間の1日の消費カロリーに相当する程度である。これくらいのエネルギーを建物で吸収させることはできないのか。
これを契機として、トグル・ダンパーなどを使った応答制御設計への研究にはいっていく。ダンパーを使って応答を制御するために性能評価曲線を使った設計法も提案されている(詳細は石丸先生の著書をご覧下さい)。複素固有値問題を解くことで、性能目標を達成するために必要な剛性や減衰の大きさを求めることができる。さらに、RDTという質量効果をもった粘性ダンパーを用いることで、質量も(ある程度)制御できるようになり、モード制御の設計手法を確立するに至った。
これにより、新しい構造システムが創造されていくことが期待されると講演を結ばれた。
現在は、大学発のベンチャー企業として平成15年に設立した「i2s2」という会社の顧問もやりながら、これまでの研究成果を啓蒙する活動にも力を入れられている。
(文責:高山峯夫)