講 師:洪忠憙先生(明治大学名誉教授、(財)日本建築設備・昇降機センター)
テーマ:「建築骨組の設計力学(DESIGN ANALYSIS)−超高層から中・低層へ−」
地震には攻撃してくる方向、すなわち強い成分がでてくる方向がある。建物には弱い方向があり、強い地震動の方向と建物の弱い方向とが一致すると応答が大きくなる。建物は三次元であり、地震入力も方向性をもっていることを認識することが大事である。
詳しいことは、洪先生が中心にまとめられた「多次元入力地震動と構造物の応答」(日本建築学会、1998)を参照されたい。
デザイン・アナリシスとは設計用の解析ということで、具体的にはD値法、等価線形化法、エネルギー法などが該当する。初期の超高層建物の設計では、日本建築学会の「高層建築技術指針」(初版は昭和39年)しかなかった時代。設計は設計者に任されていた。高層建物のねじれ応答は、活荷重の偏在、2次部材の剛性、平面形状、耐震壁などの影響を受けるため、ある意味必然的ともいえる。
この技術指針の中に示される構造計画上の注意点は、以下の6項目。
・建築物の形状は単純なものがよい
・建築物の基礎は一般にかたい地盤に支持させる
・建築物の水平力に対する抵抗要素は、
なるべくねじり変形がおこらないように配置することが望ましい
・建築物の構造は力学的に明快なものが望ましい
・建築物の骨組は所要の強度のほか、十分な靱性をもつことが必要である
・建築物に生じる変形は保安上ならびに使用上支障を生じないようにする
これらは現在の構造設計にも通じるが、最近の設計ではコンピュータ解析に依存しすぎてはいないか。
中低層建物の地震応答では、制振ダンパーを設置することで、変形を抑制できるものの、降伏は避けられない。しかし、できるだけ塑性変形を小さくすることが必要。ただ、一方で正しい変形を把握するのは難しいとも。中低層建物でも地震応答解析などが必要になるのか?
設計には目標がある。その目標にあった解析が求められる。地震時の挙動を再現するのも難しい。高層建物でも難しいし、中低層建物であればなおさら難しい。相互作用、地震動の有効入力がよくわかっていない。センサーをたくさん配置したモデル建物を実際に建設して、地震がくるのを待っているしかないのではないか。Eディフェンスでの実験も大きな成果をだしていると思うが、実際の建物の地震時挙動を観測することも有効なはずだ。
(文責:高山峯夫)