◆ 第65回研究会 概要

講師:大木聖子(東京大学地震研究所・助教)
テーマ:地震学入門と最近の地震・火山活動について

纐纈一起(東京大学地震研究所・教授)
テーマ:長周期地震動について

今回は東大地震研からお二人の先生をお迎えした。

まず大木先生からは地震に関する基本的な解説がなされた。豆腐にパチンコ玉を載せると、パチンコ玉により豆腐はへこんでしまう。では、地球に鉄球を載せたら、どれくらいの大きさの鉄球で同じようにへこむのか? 答えは東京23区の大きさに相当する鉄球とのこと。地球の大きさに比べれば微小だが、その影響は大きい。


地震が発生するのはプレート境界で、無感地震を含めると1日に300回も地震が発生している。5分に1回という割合になる。地震の大きさ(エネルギー)を決めるのは震源の大きさで、モーメントマグニチュードは、断層面積×すべり量×物性値で求める。マグニチュードが1違うと、断層面積は約10倍、すべり量は約3倍となる。その結果、エネルギーは約30倍大きくなる。


2008年の岩手・宮城内陸地震(M6.8)の断層の大きさは、首都圏でいえば松戸から横浜までを含むくらいの長さに相当した。2008年の中国・四川地震はM8クラスの地震であり、断層の長さは名古屋と東京を含む長さとなり、非常に広大な地域が震源域となる。さらにM9クラスの地震では断層長さは1000kmにも達し、日本がすっぽりと入るくらいの広さである。


地震観測などにより将来発生する地震の発生確率や地震動予測地図などが公表されている。例えば、30年間での震度6弱の発生確率が13%となっていた場合、その危険性はどの程度なのか? 火災にあう確率は30年間で2%とされており、こういった身近ものの発生確率と比較することは有効ではないか。


東大地震研ではアウトリーチ活動にも積極的で、纐纈先生は「広報アウトリーチ室長」という肩書きもある。最後に地震国では備えた者が勝つという。

■「地震予知」≠「防災」

  予知ができてもできなくても、「備える」ことは必要

  (家具の固定、防災グッズの準備、耐震補強)

■「地震」≠「災害」、「地震」+「社会の脆弱性」=「災害」

  壊れない家、倒れない家具に囲まれて暮らしていれば、地震の被害は大幅に軽減できる

■自然の営みと人の営み

地震によって形成された国土⇒自然への理解が防災への意識を生む


次に纐纈先生から長周期地震動について研究の現状などを紹介して頂いた。

長周期地震動というのが注目されるようになったのは、2003年十勝沖地震からで、2004年のNHKスペシャルで取り上げたことが一般に知られるきっかけとなった。しかし、これ以前にも長周期地震動の存在は知られていた。例えば、1968年の十勝沖地震(M7.9)の時にも周期24秒の成分があったし、1964年の新潟地震(M7.5)、そして1985年のメキシコ地震(M8.1)でも。このメキシコ地震では震源から400kmほど離れたメキシコシティで被害が発生し、世界的に知られるようになった。


以前から存在していた長周期地震動であるが、昔は構造物の規模も小さかったので、長周期成分に影響されるようなことはなかっただけ。最近の超高層建物などのように構造物が巨大化することで長周期成分の影響を受けるようになった。


以下の3条件がそろうと表面波が発生して、長周期地震動が現れる。

 ■大きくて浅い地震、海溝型の地震

 ■効率的な伝播、付加体といわれるものが波動を効率よく伝播させることがわかってきた

 ■深い堆積平野・堆積盆地


日本の大都市はだいたい堆積平野にある。東京、名古屋、大阪がある堆積平野ではそれぞれ卓越する固有周期がある。最近ではコンピュータシミュレーションにより長周期地震動が予測されている。長周期成分は短周期成分に比べ、比較的精度良く求めることができるそうで、今回のシミュレーションでは周期3.5秒以上だけを対象とした。


そのシミュレーションの方法や計算結果などは、地震調査研究推進本部により公開されている。
WEBサイトは、http://www.jishin.go.jp/main/chousa/09_choshuki/index.htm

そこでは、「長周期地震動予測地図2009年試作版」として報告書とともに、予測強震動などのデジタルデータも公開されている。この予測強震動にはまだまだ課題もある。対象とする周期を23秒程度以上にする、震源モデルの高精度化、海溝型の地震が連動して発生した場合などなど。


設計で活かすには今後の更なる研究を待つ必要もあろうが、試作版とはいえ、このようなデータを構造設計で全く無視するわけにもいかない。人間や社会の活動領域が拡大するにともない、そこで要請される建築空間や構造がたえず新しい領域に拡大される。そのため今日設定されている「適切な安全性」が、時代の要請する建築構造や社会環境の変化などとバランスのとれた「適切な安全性」にその内容や水準が変化してくる。構造設計者の勇気・努力・知恵を絞った積極的な安全、持続する安全への取り組みが求められている。

(文責:高山峯夫)