◆ 第66回研究会 概要

講師:金田勝徳先生(構造計画プラスワン・芝浦工業大学教授)
テーマ:あるべき構造設計にむけて

概要:
最初に、日本建築学会の特別調査委員会「建築学からみたあるべき構造設計」での委員会活動の紹介があった。法律を守れば安全・安心が実現できるのか、構造設計者の職能をどう考えるべきか。構造計算偽装事件は米国であれば民事で、当事者間での解決がはかられるはず。法改正をするのは不思議である。阪神大震災で6000名も亡くなったのに法律は改正されなかったにもかかわらず。
埼玉県立大学(設計:山本理顕)では打ち放しのプレキャスト部材が240mも続くといった「オリジナリティ」が、酒田市国体記念館(設計:谷口吉生)ではセルフバランス型の張弦梁を用いるといった「新規性」が、横須賀美術館(設計:山本理顕)では気持のいい空間を実現するために何度も試行錯誤した。これらの建築は、法律に従ったからできるというものではない。
法令は災害を経て改定されてきた。法令が構造技術を向上させてきたという一面はある。今では法令によって設計者が守られている状況にある。法令抜きで設計内容を説明することも難しいのも現状であるが、判断基準を法令に委ね、法令が設計内容を説明する安易性が生まれていないか。法令により自由が制限される設計、裁量の余地が奪われている。
また、一貫構造計算プログラムが神聖化され、構造計算書、コピーの無駄を生んでいる。設計者はオペレータと化すのではないか。設計は、まるでカスミの網の中を飛ぶ鳥のよう。カスミ網はよく見えないので、法令などに引っかからないように不安を抱えながら飛ばざるをえない。このように構造設計者に過度のストレスがかかっている。設計にもっと自由を与えてほしい。設計者には技量の幅があるので、資格制度の整備やピアレビュー制度、保険制度の充実が求められる。
その後、最近の設計事例について紹介があった。
◇二十騎町集合住宅(北棟)(設計:北山 恒)
5層の建物で、壁床ラーメン構造となっている。戸堺い壁をRC造耐震壁とし、床を6mの片持ち形式で持ち出している。先端には鉄骨の柱でアウトリガーの効果を期待。取り壊されてしまったが、リーダーズダイジェストの本社ビルのような構造形式となっている。
◇洗足の連結住棟(設計:北山 恒)
2010年度の日本建築学会賞(作品)を受賞した建物。戸境い壁を縦横に連結させることで、壁式構造として計画。Ds値は0.55で弾性設計をしている。二十騎町集合住宅は中央の耐震壁が同じ方向を向いていたが、洗足では耐震壁の向き交互に変わり、また偏心もある。
◇横須賀美術館(設計:山本理顕)
美術館の屋根を鉄骨トラスで構築し、それをガラス面で覆っている。屋根の温度応力を緩和するためにすべり支承が組み込まれている。
構造設計というのは実に楽しくやりがいのある仕事だ。しかし、若い人が構造に魅力を感じていない。その一因には、構造設計一級建築士をとるのに10年くらいかかるし、講習会も多すぎる。講習会が能力を育てることに繋がっているか疑問。もっと夢のある資格、仕事にする必要がある。
(文責:高山峯夫)