◆ 第67回研究会 概要

講師:福和伸夫先生(名古屋大学教授)
テーマ:社会の地震防災力向上のための地震工学研究の見える化

福和先生の講演の大きなテーマは、一般の人、社会に対する地震工学や耐震工学、広くいえば防災問題をいかに説明してくのか、そのためには「見せ方」も重要であるというものであった。よく聞かれる質問には、

・いつ地震が起きるんですか?
・地震予知はできるんですか?
・震源のことはわかっていますか?
・どこに住むのがいいですか?
・この建物は震度いくつまで大丈夫?
・液状化対策法は?
・耐震診断・改修法は信頼できる?
・大手不動産、大手設計、大手ゼネコンだから大丈夫?
・免震は安全? 超高層は安全?
・机の下に潜るの? それとも外に飛びだす?
・家具はどうやって留めるの?

があるが、これらに専門家は答えられるか?

建物の耐震性、地震動や相互作用のことなどわかっていないことも多い。個々の研究はすすんでいるものの、建物や都市としての安全性はよくわかっていないのではないか。社会に対して「わかっている」と言えるか。

過去に発生した地震の位置を地図上に描いてみて、その当時の歴史事実との関連性で説明をすると実感しやすい。1586年の天正地震と戦国時代の築城の話から始まり、頻繁に発生してきた地震が紹介された。濃尾地震や福井地震、そして兵庫県南部地震だけでなく、数多くの地震がこれまでも起こっていて、確実に100年に1回は大地震が起きているという事実を認識すべき。

明治時代は、人口4000万人で、平屋建てが多く、大家族で自然への畏敬、そして災害の伝承(土地利用も含め)が行われていた。しかし、現在は都市への集中と軟弱地盤上での都市化の進展、建物の高層化、生きる力の減退、地域コミュニティの喪失などの現実がある。さらに将来の人口構成をみると、ますます少子高齢化が進行するのは明らかである。建物は数十年と残るものであり、将来世代のために、今建物をつくっているという意識が必要。

今は「技術」があるから安全です、といえるのか、技術があればあるほど耐震性をぎりぎりになっていないか。構造設計者がコストダウンのお先棒を担いでいるかもしれない。いま当たり前と思われていることに疑問をもたなくなっているのではないか。専門家がメッセージをだせば、社会は対応してくれる。応答解析などで計算結果はみているが、それがどういう揺れ方なのかを把握しているか。

東京に、人もものも集中しすぎている。東京の建物は他地域よりも安全性を高める必要があるのではないか。東海・東南海・南海地震が連動して発生することが想定されている。この地震による被害建物は100万棟。このとき約1億トンの廃棄物がでると予想される。これは日本の一般ゴミの2年分に相当する。そのために耐震化が不可欠であるが、なかなか進んでいない。ではどれくらいの費用がかかわるのかと言えば、1日あたり40円ほど節約すればいい。耐震補強には20兆円くらい必要と言われるが、これを10年かけて国民(12千万人)で負担するとして求めたもので、こう考えると大した費用ではない。

減災行動のためのステップには、

理解する:単なる勉強
納得する:腑に落ちる、気づき
わがこと思う
決断する:説得役
実践する:協力者

が必要だが、地域の耐震化をすすめる「耐震化アドバイザー」を養成しているとも。

耐震改修には、市民目線で、計算に頼らずに説明、そして情熱をもって行うことが必要。むつかしい現象をわかりやすく説明する。社会にどうわかってもらうか。そのためのツールを開発している。いま、みんなで安全ですとしか言えない社会になってしまった。コンクリートから人へ、に対しては、そんなことでは心配だと言う必要がある。負の遺産を将来に渡しているのではないか。

国民はちゃんと説明すればわかってくれる。専門家(構造家)の説明力が問われている。

(文責:高山峯夫)

参考WEB
1)名古屋大学 地震・防災グループ http://www.sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp/
2SEIN WEB「地震と建築」 http://www.demos.jp/fukuwa/01_01.html