講師:中埜良昭教授(東京大学生産技術研究所)
テーマ:途上国における地震災害復旧支援の現状と課題
耐震対策の基本的な考え方として、被災前はリスクマネジメント(危機管理)が求められ、被災後にはクライシス・マネジメント(被害拡大防止、速やかな復旧・回復)が求められる。耐震診断基準は1977年に初版が刊行されたものの、全国レベルでの耐震診断が実施されるまでには20年近くかかった。震災前の対策が一番有効であるものの、まだ万全の態勢にはいたっていない。
既存不適格建築は、370万棟くらいある。これを構造技術者が年間10棟のペースで診断するとしても、診断が終わるまでに十数年はかかる計算となる。ある程度の被害は生じる可能性はあるため、震後対策も重要となる。
もしも東海・東南海・南海地震が発生すればスーパー広域災害となる可能性がある。 応答危険度判定は危険・要注意・調査済みを仕分けする。10万人ほどの要員がいる。被災度区分判定は倒壊・大破・中破・小破・軽微を判定し、3500名ほどの要員がいる。被害認定(罹災証明)は行政での対応となる。しかし、関東で地震があった場合、対応可能だろうか。
海外での地震災害に対して、被害調査には学術的な調査に加えて、被災程度や被災建物の安全性の評価、被災構造物の復旧に対する提案や技術協力も含まれる。1999年のトルコ・コジャエリ地震(M7.4、死者1700以上)、1999年の台湾・集集地震(M7.3、死者2000以上)、2008年の中国・四川地震(M7.9)などで被害調査、被災判定などの技術協力を行った。その中で、将来の災害予防を含んだ中長期的な支援も求められる。そのためには、
・日本側から提供できることを明確にしておくこと
・支援の対象を絞り込むこと
・科学的・客観的事実の把握のための調査が重要、
特に「その後」の対応の根幹をなすもの
・継続支援の実現とそのための仕組みづくり
(人材、物資、支援活動の意義、日本のプレゼンスなど)を事前に決めておくことも必要となる。
実務者の協力体制も重要となる。そのための課題は、
・実務者には、是非「実物の被害」を見てほしい
・復旧指導には実務者の協力が不可欠
・防災分野の人材が不足している(特に若手)
・国内外の人材ネットワークの整備が必要となっている。
この研究会の後に「東日本大震災」が発生した。中埜先生が言っていた、震災前の対策が十分だったのか、今後の震災対策はどうすればいいのか、専門家にかせられた課題だろう。
(文責:高山峯夫)