講師:川口健一(東京大学生産技術研究所・教授)
テーマ:東日本大震災による大規模集客施設の天井被害そしてその復旧と対策
阪神淡路大震災(1995年)の時から体育館などでは天井の落下などは起きている。当時調査した建物の約1/3で非構造材が落下しており、そのうち7割から8割は天井の落下だった。高いところに吊られている重いものは危険であるが、被害を受けた天井は同じ素材を用いて元の通りに復旧している。また地震がくれば同じ被害が繰り返される。
天井落下の形態は、クリップの変形、ビスの頭抜け、Tバーからの脱落、水分を吸ったグラスウールによるものなど要因はさまざまである。クリップを補強しても、斜め材を入れても、次に弱いところが被害にあう。まるでモグラたたきの様である。これまでの調査から震度5を超えると天井落下などの被害が発生する確率が高まるという経験則を得ている。多数の人が集まる、天井が高い、大面積などの条件が当てはまる場合、地震時には、特に大きな危険が発生する(地震がなくても天井は落下することもある)。
天井は非構造材であり、構造設計者の関与があいまい。高所設置の非構造材に対する建築家の認識が甘いことが、被害を繰り返す原因ではないか。非構造材である天井の材質と設置高さにもっと関心をはらうべきである。
仙台メディアテーク、仙台駅新幹線ホーム、茨城空港エントランスホール、日本科学未来館などでの東日本大震災での天井落下の状況を紹介。被害の復旧方法の一つとして「膜天井」を使った例がある。2003年の地震で被害を受けた釧路空港でははじめて膜材を使った復旧が行われた。今回の震災で天井が一部落下した日本科学未来館では、震災復旧の手本となるような膜天井による復旧工事を実施。既存天井の補強対策は難しいが、落下防止ネットを張る方法が設置も簡単で有効である。安全を優先すれば見栄えは二の次といえるが、メッシュ膜材を使えば見栄えは改善される。
今後は、天井などの非構造材の安全性評価法の確立が必要で、そのために適切な設計のガイドライン、既存建物における改善緊急度の確認方法などが求められる。既存天井の安全性確保のために落下防止ネットによる工法の確立も求められる。低廉で即効性のある有効な改善方法の確立が必要である。
一方で、内装制限の法規制は緩和されるべきであると考える。不燃材を用いることが規定されているが、高所に重い石膏ボードを設置することは適切ではない。性能規定による自由度の確保が必要。そして、安全の確保の責任は「建築家」にあることを啓発すべきである。
(文責:高山峯夫)