講師:井上範夫先生(東北大学工学研究科都市・建築学専攻教授)
テーマ:東日本大震災を経験して
2011年3月11日に発生した東日本大震災の特徴は、被災地域が広いこと、そして津波の被害が甚大であることだろう。建物被害や人的被害のほとんどが津波によるものであった。仙台平野では津波による農業への打撃が大きかった。また、被害調査をする研究機関自体も被災をした。
地震直後は、まずが東北大学の建物、約50棟の応急危険度判定を行った。東北大学人間環境系建物は、9階建てのSRC造で1969年に竣工。短柱もなく効果的に壁が配置されているため、1978年の宮城県沖地震にも耐えたものの、今回の震災で大破となった。
解析によれば応答最大変形時の周期は1秒程度となっている。入力地震動はちょうど1秒にピークがあり、敷地の青葉山の特徴が反映されている。この建物は2001年に耐震補強されたが、もし耐震補強していなかったら、どうなっていたか。2回の大地震によく耐えたといいたい。
東北大学の総合研究棟(13階建ての制震構造)では被害はなかったものの、上層階では本棚は倒れるなど、家具什器は散乱した。仙台市内の建物の被害状況としては、主体構造の被害は比較的少ない、建物内部の被害は甚大。ただし工場の被害は大きく、生産ラインが停止していた。私的な建物の被害調査には限界がある。被害情報を適切に把握し、今後の地震対策に反映することが必要だが、その良い方法は?
津波による被害は甚大で、ガス・石油の生産施設、汚水処理施設、漁業施設や漁場の被害が大きかった。津波で建物は耐えたものの、多くの流失物が流れ込んで、建物として使えない例もあった。この場合、被災判定は建物が残っていれば無被害となる。構造的にはもった建物ではあるが、こういった建物を無被害と判定していいのか。その後の再利用も含めた判定が今後必要かもしれない。
今回の震災をうけて、
・望ましい崩壊メカニズムの設計(靱性保証設計)
・動的解析で耐震性を評価する建物(超高層建物、免震、制震)は入力レベルのアップだけでは不十分
・超高層建物の梁降伏後の柱座屈
などについて耐震設計に反映させることが大事。今後の地震対策としては、東海・東南海 ・南海地震の3連動地震、長周期地震動対策が求められる。
講演は次のクラウィンクラー博士からのメッセージ「日本から学ぶべきこと」で締めくくられた。
1.CALM(平静)
2.DIGNITY(自尊心)
3.ABILITY(建物は揺れたが倒壊せず)
4.GRACE(親切)
5.ORDER(順番守る)
6.SACRIFICE(必死の原発対応)
7.TENDERNESS(優しさ)
8.TRAINING(訓練)
9.MEDIA(冷静な報道)
10.CONSCIENCE(良心)
なお、日本免震構造協会の機関誌「MENSHIN」(No.73,2011.8)には「東北地方太平洋沖地震にける体験記」と題して寄稿されている。
(文責:高山峯夫)