講師:久田嘉章先生(工学院大学・教授)
テーマ:東日本大震災での新宿・超高層ビルの揺れと被害、
および今後、首都圏で想定される地震と地震動について
久田先生の講演内容は、
・首都圏で想定すべき地震と地震動
・被害地震からの地震防災への教訓
・新宿駅周辺地域における取り組み(ハード・ソフト対策)
・東日本大震災による超高層ビルの揺れ・被害・教訓
で非常に広範囲であった。
首都圏で想定すべき地震としては、首都圏直下地震、海溝型巨大地震、活断層をあげた。立川断層帯の被害想定、東海・東南海・南海地震による長周期地震動などの被害想定が紹介された。活断層などは確認されていないものもあり、どこで地震が発生するかはよくわからない。
地震動としては、ランダム特性(短周期型)とコヒーレントな特性をもつものを紹介。ランダム特性はエルセントロ波やタフト波などに代表される短周期成分が卓越したもので、建物への破壊力は特に大きくない。
一方、コヒーレント特性をもつ地震動としては、堆積層表面層(長周期地震動)、震源近傍の強震動(指向性パルス)、地表断層近傍の強震動(フリングステップ)などがある。堆積盆地における長周期地震動は、2003年の十勝沖地震で有名となった。指向性パルスは1995年の兵庫県南部地震などでも示された地震動で、断層直交成分が卓越し、破壊が近づく方向のパルスが強くなり、破壊力を増す。フリングステップとは、1999年台湾の集集地震でみられたような地表面に断層が出現することで大きな被害をだすもの。
これら、現状の設計用地震動を超えるレベルの地震動に対して、建物の安全を確保すればいいのか。建設地域の地震危険度などをできるだけ詳細に把握した上で、対応していくしかないのだろう。
防災対策として、新宿駅周辺の取り組みや、工学院大学の防災・減災活動への取り組みが紹介さえた。工学院大学の学生の1/3にあたる約1000名が参加しての防災訓練は素晴らしい。ただ、新宿駅周辺の昼間人口は約30万人。自治体の防災対策はあくまでも住民対応でいかない。また、これまでの防災訓練は主として防火訓練だった。火災からはいかに逃げるかが重要となるが、震災時には自ら対応することが求められる。初期消火、けが人の手当・搬送など「戦う訓練」が必要となる。
東日本大震災のときは工学院大学の最上部(29階)で37cmほどの変位、最大加速度は290ガルであった。しかし、1階での最大加速度は97ガルであり、上層部がどれほど大きく揺れているのか想像しづらい。上層部では家具の転倒などが発生していた。なお、東海・東南海・南海地震が発生すると地震波が付加体とよばれる部分を通過してくる。このため、長周期の揺れが増幅され、今回の震災時よりももっと大きな揺れになる可能性が高いとのこと。
防災対策に終わりはない。
(文責:高山峯夫)