講師:大橋好光先生(東京都市大学教授)
テーマ:木造建築の最近の話題−公共建築木造利用促進法と中大規模木造−
(平成24年5月7日, 日本大学理工学部)
概 要:
大橋先生の講演は、
・木造建築の非住宅分野への拡大
・新しい架構形式への挑戦
・住宅分野の構法の変化
であった。
2010年の公共建築物の木材利用促進法では、「3階建て以下の比較的小規模な公共建物は全て木造建築としなければならない」という内容。公共建築物には、国や地方公共団体が補助した建物も含まれる。公共建築物は、年間1500万平方メートル建設されており、そのうち600万平方メートルが今回の法の対象となる建物といわれている。現在は100万平方メートルなので、約6倍の量となる。
その需要に応えるために、中大規模の木造建築が求められる。
既にコンビニエンス・ストアの木造化も試みられており、ゼネコンが木造に目を向けている。さらに住宅メーカーが木造ビルの実用化をおこなっている。木造ビルのために木質ラーメン構造が必要となる。木質ラーメン構造では、接合部が問題となるが、さまざまな接合方式が考案され実用にも供されている。
鉄筋挿入接着構法は、現在では構造計算で建てることが可能で、実績も多い。接合部に鉄筋を挿入し、エポキシ系の接着剤で一体化させる。現場での施工となるため管理に注意が必要であることと、鉄筋が降伏する前に接着剤で破壊すれば脆性的な破壊形式となる。鉄筋で降伏させるために、鉄筋の一部を切削(断面を細く)する工夫もあり得る。一方、ラグスクリューボルト工法は、工場で定着部を加工しておいて現場ではクサビやボルトなどで固定する方法もある。
クロスラミナパネルは、欧州で開発されたもので厚さ90〜150mmの木製パネル。これを床や壁に用いて組み立てる構法もある。クロスラミナパネルは部材認証が得られていないので、日本ではまだ使えないものの、現在37条認定、JASを取得する動きがある。年度内には認証が得られそうだとのことであった。JASの認証にあわせて、現在国産メーカー3社が名乗りを上げている。ただ、クロスラミナパネルが地震力を受けると、壁の端部が浮き上がる。パネルは壊れないもののロッキングする。パネル端部の接合部の設計法をつくる必要がある。これには数年かかるかもしれない。
大規模木造建築では耐火性能が重要となる。4階建てには1時間耐火、5階建て以上には2時間耐火が求められるが、2時間耐火の認定を得たものはまだない。耐火構造にするには、
・被覆型
・燃え止まり型
・鉄骨内蔵型
の3通りがある。木造の芯を耐火被覆材で覆えばいいが、これでは木造の質感が得られない。木造らしさが出てこない。鉄骨内蔵型は木材を耐火被覆材とみなすもので、実施例もあるが、純粋の木造建築とはいえない。燃え止まり型は木材の心材を不燃木材などで覆い、さらに燃え代分の木材を貼り付けたもので、耐火1時間を取得する動きもある。
最近は、木材をつかったビルも増えてきた。木造化は構造体が木造であることをいい、木質化は内外装材に木造を使うことをいうらしい。純粋木造というよりは、鉄筋コンクリート構造や鉄骨構造との混構造で木材の特性を生かした架構ができるのではないか。ただ、混構造とした場合の構造計算、適合性判定など難しい面もある。混構造に対する構造設計の環境を整備することが早急に求められる(建築学会の構造委員会も各種構造の縦割りなので、各種構造を横断するような委員会が必要では)。
これまで住宅メーカーは120万〜130万戸を前提として工場設備を整えてきている。これからは80万戸の時代。住宅メーカーは業態の変革が必要となっている。木造ビルや中大規模木造への進出が進められている。
木造業界には、いま「追い風」が吹いている。
これを単に「風」で終わらせてはならない。そのためにも木材業界、建築業界でも木造建物が建設しやすい環境を整えていく必要がある。たとえば、木材のコストダウン、木材の耐久性情報の提供、住宅を対象とした仕様規定の見直し、木質ラーメン構造の設計法、木造床の遮音性能の設計などなど。
(文責:高山峯夫)