講師:北山和宏先生(首都大学東京教授)
テーマ:耐震補強された鉄筋コンクリート建物の東北地方太平洋沖地震による被害と性能評価
(平成25年1月30日, 日本大学理工学部)
概 要:
ご講演では、主にRC建物の地震被害の調査と分析、そして鉄骨ブレースで補強したRC校舎の被害と応答解析をご紹介いただいた。
2011年以前に、耐震補強された建物が地震の洗礼を受けたのは、2003年三陸南地震と2004年新潟県中越地震しかなかった。2011年東北地方太平洋沖地震では、全体として耐震補強は有効であった、といえる。しかし、上部構造や基礎構造に大きな被害を受けた建物も多数あった。耐震補強して被災した建物は、わかっているだけで29棟(小破以上)。庁舎の1例を除くと、すべて学校で、うち9棟は基礎構造の被害であった。
被害の内訳をみると、上部構造の大破は2例で、1969年建設(2階建ての学校)と1969年建設(8階建ての大学校舎)となっている。中破は4棟が梁間方向での被災、2棟が耐震補強工事が途中であった建物、1棟が補強しなかった3階で被害がでた。
基礎構造の被害では、大破7棟、中破1棟、小破1棟となっている。上部構造を耐震補強することで水平耐力が増大する。結果として杭への水平力が増えることになる。基礎構造の補強方法をどうするのか今後の課題だろう。
今回の調査などから得られた教訓は以下のとおり。
◆強度型補強では、せん断柱・せん断壁が想定通りに破壊することを許容しているが、それで使用者が納得するだろうか。また補強部以外の破壊を防ぐことにも配慮が必要。
◆高さ方向の水平剛性を均一にする
◆水平抵抗要素の平面内の配置に配慮する
◆基礎構造の検討。地盤状況をよく知ることが大事である。
◆耐震補強しなかった方向の被害抑止
◆耐震スリットの問題。長柱化すれば剛性が低下する。地震時挙動に影響を与える可能性があるかもしれない。
耐震補強する場合、Is値だけに着目しがちであるけれど、耐震性にはさまざまな要因が関係している。単に強度を高めるだけでなく、耐震要素の配置など建物全体への目配りが欠かせない。耐震補強したからといって大地震時に被害が出ないわけではない。使用者らへの説明もきちんとなされるべきだろう。
(文責:高山峯夫)