◆ 第79回研究会 概要

講師:境有紀先生(筑波大学教授)
テーマ:地震動の性質と建物被害の関係 −東日本大震災の揺れによる被害の実態とその理由−
(平成25年8月1日, 日本大学理工学部)

東日本大震災のマグニチュードは9.0で、最大震度は7だった。しかし、揺れによる構造物の被害は非常に小さい。その理由は、構造物の耐震性が向上したからだと思われていないか? 震度や地震動に対する正しい理解が必要だし、防災を考える上でも非常に大切なこと。

筑波大学に移動してから、震度6弱以上の地震(15回)の被害調査を実施。被害を受けていない建物も含めて調査している。特に根拠はないが、強震観測点の周辺半径200mを基準として万遍なく調査、外観から全壊・大破を判定している。東日本大震災の際に震度7を計測した「築館」の周辺に被害はなかった。調査した結果、全壊と大破の割合は、調査棟数2954棟に対し14棟のみ、割合は0.47%でしかない。震度の被害目安とは大きなギャップがある。

これは地震動の周期成分に原因がある。
東日本大震災の地震動の卓越周期は0.5秒以下であったのに対して、1995年兵庫県南部地震では周期1〜2秒の成分が卓越していた。この周期帯は建物の被害と相関が高いといわれている。建物が強震動をうけて塑性化したときの等価周期と共振しているのかもしれない。地震動に1〜2秒のパルス波が出るのは、震源の特性によるか、地盤増幅による。

震度は、1996年に計測震度に変わったものの、それまでの人の判定との連続性を考慮して、「人体感覚」が重視されている。つまり、人がどれほど強い揺れだと思うかを重視している。そのため人体感覚と対応した周期0〜1秒の周期帯で計測している。建物の被害とはあまり関係のない周期を測定していることになる。

最初の疑問に戻ると、建物被害が少なかった理由は、地震の揺れが「弱かった」からで建物の耐震性が高いからではない。今回の超巨大地震で大丈夫だからといって、これから大地震が来ても大丈夫とは思ってはいけない。

過去の地震動を見てみると、建物に大きな被害をもたらす1〜2秒の応答が大きな地震動が発生するのは、10回に1回くらい。発生する地震動の10回中9回は短周期地震動で、震度が大きな割に被害は小さいタイプ。津波警報が出ても、実際に津波が来るのは10回に1回くらい。

このくらいの発生率だと、どうしてもオオカミ少年になってしまう。人間がもつ「正常化バイアス」を考慮すべき。現行の震度算定法、津波警報、緊急地震速報の精度の低さをしっかり防災教育で認識してもらうことが重要。無駄足でも避難することが大事である。防災とは、人間の本能に逆らうことである。

(文責:高山峯夫)