◆ 第81回研究会 概要

講師:藤田香織先生(東京大学准教授)
テーマ:建長寺仏殿・法堂の耐震性に関する研究
(平成26225, 日本大学理工学部)

 

木材は繊維方向と繊維直交方向の剛性が1020倍違う。柱・貫の接合部では木材のめり込みが生じる。博士論文は五重塔、特に組み物の耐震性、減衰性に関して振動台実験などを取り入れてまとめた。東京工業大学、東京都立大学の講師を経て現職。各要素実験を組み合わせて、五重塔などの地震被害の再現ができるかについて取り組んできている。

 

建長寺(神奈川県鎌倉市)の主要な堂宇(どうう)の2つである仏殿と法堂は、ともに3間×3間に裳階(もこし)がついた三間堂仏殿でありお互いに隣接している。しかし、1923年の関東地震で、建長寺の仏殿は倒壊したが、法堂(はっとう)は傾斜しただけだった。柱と貫の構造という類似の構造であるにもかかわらず被害が異なる原因を究明したい。そのために、常時微動測定や地震観測を行っている。常時微動測定では、仏殿の固有振動数は2Hz、減衰定数は1.31.7%、法堂の固有振動数は1.4Hz、減衰定数は1.4%であった。一方、地震観測によれば、仏殿の振動数は4mm変形時に1.4Hz、法堂は2.6cm変形時に1.0Hzであった。変形量に差があるのは、仏殿に比べて法堂の方が大きいため。

 

解析を行うために、柱の転倒復元力を求める実験をしたり、貫の継ぎ手の状況をX線で調査したりした。X線調査によれば、仏殿の継ぎ手は略鎌継ぎで、法堂は竿車知継ぎということがわかった。そこで、柱貫の接合部実験を実施した。通し貫(継ぎ手なし)に比べると、略鎌継ぎの耐力は2/31/2程度となり、層間変形角1/7で破壊した。竿車知継ぎの耐力は約1/2となり、実験範囲では壊れなかった。

 

こうした実験結果に基づいて、仏殿と法堂の復元力特性を比較すると、倒壊した仏殿の方が強いという結果が得られた。これについては、規模の違い(スケール効果?)、柱脚の効果、さらには経年変化の影響も考えられる。

 

研究対象が重要文化財や国宝級であるため、調査や実験も思うように進められない難しさはある。さらに、木材特有のモデル化の難しさも加わってくる。しかし、そういった困難の中に研究のおもしろさがあるのではないだろうか。

 

(文責:高山峯夫)