講師:藤田聡先生(東京電機大学教授)
テーマ:昇降機の安全規制と耐震設計
(平成26年7月11日, 中央大学駿河台記念館)
今回は、建築サイドとは違う視点から耐震設計を考えてもらおうということで、東京電機大学機械工学科の藤田先生にご講演をお願いした。東日本大震災では、エスカレーターやエレベーターなども被害を受けている。こうした昇降機の安全性をどのように確保すればいいのか。
昇降機の安全性は建築の範疇なのか、機械の範疇なのか?
昇降機に関する日本と海外の事故の紹介がされた。米国では1年に10人くらいは事故で亡くなっている。それに比べると日本は安全といえないこともない。日本の昇降機安全規制は、建築基準法と労働安全衛生法で定められている。ただし、基準法と衛生法ではエレベーターの区分に差違がある。米国やEUなどでは異なる規格が定められているので、国際標準化の動きがある。
昇降機の安全性に関しては、「安全度水準」(Safety Integrity Level、SIL)という尺度で故障限度が規定されている。尺度にはSIL1〜SIL4まであり、SIL3が要求されれば、目標故障限度が10の-8乗から10の-6乗の範囲であることが要求される。日本ではメーカーごとに異なった設計基準で製造されているので、昇降機の仕様規定をJISなどで制定すべき。
東日本大震災における昇降機の被害を調査。
エレベーター約36万台、エスカレーター約4万台を調査した結果、被害率はエレベーターが約2.4%、エスカレーターが約3.9%であった。エレベーターでの被害部位は、主索やケーブル類の引っかかり、脱レールであった。エスカレーターでは、位置ずれ、乗降板の破損、トラスの変形が多かった。
昇降機耐震設計・施工指針が改訂された(2014年版)。このなかで特にエスカレーターの脱落防止対策が新設され、実験で検証することが求められた。「トラス等に安全上支障となる変形が生じないことを実験により確かめる」ことになったものの、現実的な検証方法についてはこれから議論となっている。
現行のエスカレーターの耐震基準では、エスカレーターを支えるトラスのかかり代を昇降高さの1/100に20mmを加えた長さを確保するようになっている。このかかり代を1/100から1/24に大きくするようになるようだ。
いずれにしても、昇降機の安全性はメーカーだけでは解決できない。建築の技術者とメーカー(あるいは機械技術者)の協働が求められている。
(文責:高山峯夫)