講師:前田匡樹先生(東北大学大学院教授)
テーマ:東日本大震災による建物の被害とこれからの構造設計の課題
(平成26年10月24日, 日本大学駿河台キャンパス)
講演では、東日本大震災による主に鉄筋コンクリート構造建物の被害について紹介いただき、そこから垣間見える構造設計の課題について話をしていただいた。
東日本大震災による仙台市などでの建物の被害率は耐震補強をした建物のほうが小さかった。現行の耐震基準・耐震補強は倒壊防止には効果的であるものの、損傷防止(継続使用、修復の容易さ)なども重要である。
しかし、東北大学N研究棟は耐震補強されていたにもかかわらず、柱が圧壊した。これは耐震補強した壁が曲げ壁として設計されていたが、柱に伸び能力が不足していたためと思われる。単に耐震診断した結果に基づいて補強設計をするのではなく、建物全体の地震時応答を考慮した耐震補強が必要である。
建物骨組が大丈夫でも、壁(仕上げ)や天井、建具、設備機器などの非構造部材の被害で使用不能となる建物も多かった。国の災害復旧は、原状回復が原則となっており、修復してもまた地震被害を繰り返す羽目になる。
特に地盤の悪い地域では杭の破壊などの基礎構造に基づくと思われる建物被害も目立った。上部構造と基礎構造のバランスが大事であるが、耐震診断に基礎構造は入っていない。
東日本大震災では、津波による人的被害と建物被害が多かった。鉄筋コンクリート構造の躯体は津波に耐えていたケースが多かったものの、津波が侵入した建物内部は瓦礫が散乱し、仕上げ材や建具、設備機器には甚大な被害が発生。また水圧で床スラブが上に持ち上げられている事例もあった。
津波や極大地震など、設計の想定を超える過大外力に対するリダンダンシー(余力)を確保することが求められる。
(文責:高山峯夫)