テーマ:杭基礎に関わる最近の話題紹介 -地震被害、構造設計-
講師:柏 尚稔(国土交通省 国土技術政策総合研究所)
日時:令和3年3月29日
概要:

地震被害を経験する度に上部構造の耐震設計技術の向上が図られ、上部構造の地震被害は減少傾向にある。一方、杭基礎の地震被害が顕在化し、杭基礎の耐震設計に関わる課題が注目されている。今回の講演では、関係した最近の杭基礎に関わる話題として、2016年熊本地震における杭基礎建物の地震被害の事例と、国交省が主導する杭基礎に関する技術開発プロジェクトの概要が紹介された。

熊本地震のときの益城町役場の地震時応答や杭基礎の被害について検討した結果について説明された。検討ではKiK-net益城(KMMH16)と益城町役場1階(MTO)での強震記録が用いられている。両観測点は700mほどしか離れていないにもかかわらず、応答スペクトルの性状はかなり異なっている。観測点の深さ40m程度(Vs=700m/s)までの速度構造はほぼ同じとなっている。KMMH16の地震記録を基盤まで戻して、MTOでの地表面の地震応答を推定したところ、KMMH16とほぼ同じ結果となった。

上部構造の耐力の影響を検討した結果、建物を線形と仮定した場合、観測記録を再現することができた。益城町役場の上部構造が非線形化した場合には、益城町役場の強震記録は大きく異なったものになったと考えられる。益城町役場の強震記録は、上部構造の損傷が小さい状態において、主として局所的非線形性を伴う動的相互作用効果の影響を大きく受けたと考えられる。そのため、建物内で観測された地震記録を建物の応答評価などに使う場合には注意が必要である、と結んだ。

また、国交省の杭基礎に関するプロジェクトとして、既存杭の処理問題、老朽化した宅地擁壁の耐震性の問題が紹介された。

(文責:高山峯夫)