テーマ:空間構造の地震応答特性と免震・制振技術による損傷制御
講師:竹内 徹(東京科学大学 教授)
日時:令和7年1月8日
大規模ホール・スタジアム・体育館等、大スパンを覆う空間構造は通常の重層型建築構造と異なり層の概念が明確でなく、構造が層毎に振動する前提となる剛床仮定が成立せず、水平地震入力に対し屋根構造の鉛直振動が励起されるという特性がある。また、屋根が鋼構造で支持架構がコンクリート系構造物で構成されていることも多く、単一材料・重層型を基準とした既往の耐震研究や構造設計規準が適用できない。このため、過去の大地震に際する空間構造の被害では屋根部材や境界の支承部・内外装・天井・設備類の損傷や落下により死傷者を生じるだけでなく、復旧に多大な期間と費用を要し、避難所として期待されてきた機能を果たせないという状況が繰り返されてきた。
本講演ではこのような空間構造特有の地震応答特性を簡便に予測する応答評価法を紹介してもらうとともに、制振・免震技術の応用による損傷制御の手法を紹介いただいた。
ラチスシェル屋根構造は剛床仮定が成立せず、水平入力に対しても鉛直方向の応答が励起されるという特性を持っています。また振動特性が複雑でさまざまなモードが存在しています。ただシェルの下部構造の水平剛性を小さくしていくと、鉛直方法の振動モードがなくなるという特性を示します。すなわちシェル屋根を免震化すれば鉛直方向の振動モードがでなくなります。
これまでの地震災害で多いのが、支承部の被害です。屋根を支持している構造体が変形することで、支承部への反力が大きくなることが原因です。しかし、こうしたことを念頭においた設計はほとんどなされていませんし、損傷した支承部を修復する場合も元の状態に戻すだけなので、再度地震に見舞われると同じ被害がでる可能性が高くなります。
2024年にEーディフェンスにおいて行われた学校体育館架構の制振実験・崩壊実験の様子や応答評価法との整合性についても紹介いただきました。実験では下部構造に制振ダンパーを設置することで屋根の水平・鉛直応答を約7割に低減できることが確認されました。また屋根に鉛直方向のTMDを設置することで鉛直応答が約7割に低減されました。空間構造に制振・免震技術を適用することで、屋根の安全性を向上させることにつながります。
講演では、シェル・空間構造の設計の参考となる書籍を紹介いただきました。
(文責:高山峯夫)