講師とテーマ
五十嵐 規矩夫(東京工業大学・教授):実条件を考慮した鋼構造部材の安定性評価
日時:2019年7月30日(火)17:00~18:30
概要:
鉄骨梁の座屈、特にH形鋼の局部座屈、横座屈、連成座屈について研究成果を紹介してもらった。研究方法は実験が中心だが、実験結果は有限要素解析でも十分再現できるレベルにあるという。
最初に局部座屈について。鉄骨の部材は基本的に板要素で構成されている。板要素の座屈応力度については、横座屈係数と幅圧比を使って算出できる。一般的に横座屈係数は最小値として4を使えるとなっているが、実際の境界条件(辺長比、応力状態など)を考慮すれば、もっと合理的に設計ができるのではないか。また、幅圧比の制限は、単純支持、純圧縮などといった理想化された条件で求められたもので、実状を踏まえていない。そこで、実際の条件を反映できるようにした新しい幅圧比制限を求める方法を提案した。
横座屈についても、横座屈耐力式が示されているが、そこで使われているモーメント修正係数は実は近似式となっている。この修正係数を厳密に評価することで、適用範囲を広げることができる。逆に、現状の近似式では危険側となる領域もあることがわかった。
局部座屈と横座屈が連成するような場合についても、これまでの研究成果を反映した新しい評価方法を提案している。さらに、局部座屈を抑制するための水平スチフナの効果についても検証しており、H形鋼のウェブの断面積に対してスチフナの断面積が0.2程度を確保すれば塑性変形能力を確保できるとしている。
この一連の研究によって、五十嵐先生は2018年度の日本建築学会賞(論文)を受賞されている。また研究成果の一部は、学会の鋼構造設計規準や鋼構造座屈設計指針などに取り入れられている。
(文責:高山峯夫)