講師とテーマ
楠 浩一(東京大学教授):等価線形化法の概要と既存建物の被災度判定への応用
日時:2019年11月6日(水)17:00~18:30
概要:
わが国での震災や地震計による観測体制について紹介した後、保有水平耐力計算の概要について解説された。保有水平耐力計算では変形の概念はない。そのため変形がどこまで進行するかはわからない。極限地震での妥当な設計用応力と設計用変形性能を決めることができない。そこで、変形を考慮した設計法として、限界耐力計算が提唱された。
次に等価線形化法について紹介。等価線形化法は50年前には基本的な枠組みはできていた。応答加速度(Sa)-応答変位(Sd)の関係(要求曲線)と建物の耐震性(性能曲線)を重ね合わせることができる。これにより非線形領域での建物の耐震性能の評価が可能となる。
ただ、設計で考慮すべきばらつきもある。
- 設計用地震動と実地震動の差
- 算出される応答値のばらつき
- 材料強度のばらつき
- 部材性能のばらつき(限界値のばらつき、モデル化のばらつき)
- 非ヒンジ部材の応力のばらつき(高次モード、2方向入力等の影響)
地震後には建物の残余耐震性能を把握する必要がある。そのために比較的安価な地震計を設置し、得られた観測記録を等価線形化法に当てはめて残余性能を評価する手法を開発した。実建物での計測例もあり、建物の被災度判定には使えそうだ。
今後、防災技術はリアルタイムで必要な情報が手元に届くようになる。安全な場所へ安全なルートでの避難を呼びかけることも可能に。衛星やドローンを活用することでより広域の被害情報が把握できるようになるだろう、と結んだ。
(文責:高山峯夫)