テーマ:一貫構造計算と構造設計法
講師:大越 俊男 先生(東京都防災・建築まちづくりセンター耐震構造専門相談員)
日時:平成28年4月22日
概要:
大越先生は70歳となられ、構造設計50年の経験に基づいて、いまの構造計算について問題提起をしていただいた。
現行耐震基準は1980年に改正されたが、それらは手計算を前提につくられた。応力を求めることが中心であった。この20年間で計算機の機能が飛躍的に高度化した。建築構造計算では、ほぼ全てで一貫構造計算ソフトや振動解析ソフトを用いてなされている。ソフトでは変形が求められている。
これらのソフトは、計算機の高機能化にともない、これまでの解析の慣習を無視して、高精度化してきた。性能設計では、安全性も居住性も、変形によって決定される。構造設計者は応力から変形に考え方を変えることができたのであろうか。構造設計者が学習していることとソフトの乖離はないのだろうか。構造設計者は現在のソフトを正しく理解して使っているのであろうか。
日本では、構造解析するときに「剛床仮定」や「質点系モデル」を使うが、これは日本だけである。時刻歴応答解析するときに、記録地震波を使うのも日本だけ。英国では、役所は責任を負えないものには関与せず、構造の審査を無くしている。米国では、構造に関する技術基準はあるが、審査はない。ただ地震地域ではピアチェックが求められる。
いまのように基準や資格のない時代にも大規模構造物がつくられていた。ローマ時代にはパンテオンやコロッセウムのようなすばらしい建築物ができていた。
日本に限らず今の構造設計者は、一貫構造計算の結果を検証することなく、盲目的に使っている。設計者は建物の性能をわかろうとするが、求めようとしているその性能は真実であろうか。設計は、ルールに従った計算によって、要求性能を満足させること。真実の探求は、設計とは関係ないのでは。
世界では、3次元の弾性立体解析や弾性振動解析がなされ、2方向の応力・変形や振動応答が出力されているが、断面やフレーム、応答結果の検討は、1方向での検討しかなされていない。その検討方法を考えてほしい。また多くのケーススタディを試みて欲しい、と。さらに、日本特有の剛床仮定や偏心率、質点系モデルをやめ、2軸応力や立体振動解析に対する評価に変更すべきであるとも。
将来、人工知能(AI)が発達してくると、構造設計者はどうなるだろうか?
(文責:高山峯夫)